北海道大雪山系で痛ましい遭難事故が起こった。18人のツアーパーティーのうち,実に8人が低体温症で亡くなった。7月とはいえ荒天により,標高1000メートルを超える高地では気温は10度そこそこ。風速20メートルの強風に雨が交じり,体感温度は0度以下だったという。3日間で40キロ超を歩く行程の最終日で疲労も蓄積していたようだ。

 晴れていればTシャツで登れる夏山でも,天候が悪化すれば真冬並みの体感温度になることがある。事前に低温リスクを認識し,薄手のダウンジャケットといった防寒着を着用するなど,全員に十分な装備があれば最悪の事態は避けられたかもしれない。そう考えると心が痛む。

 ビジネスにも様々なリスクが付きまとう。企業の存続さえ脅かしかねないリスクを乗り越えていくには,発生しうるリスクを把握して発生確率や影響度を状況に応じて評価・管理し,コストを考慮して適切な対策を施していくことが大切なのは言うまでもない。

 問題は,企業を取り巻く現在の経営環境の厳しさだ。まさに荒天と言っていい。米国のサブプライムローン問題をきっかけに約1年前に発生した金融危機は,瞬く間に実体経済を巻き込んだ経済危機となって全世界に広がった。世界規模での需要の減退により企業の売り上げは激減し,日本国内でも2009年3月期決算では大幅減益や赤字に陥る企業が相次いだ。

 売り上げが減って固定費の削減が追い付かない状態は,いわば喫水が上がった船舶に似ている。十分な売り上げがあった時は耐えられた小さな“波”であっても,転覆,つまり経営危機の要因になりかねない。業績が厳しいときほど,リスクの管理と対策が,企業やビジネスの継続性や成長力に直接的な影響を及ぼす。

 一方で,事業の継続や成長を目指す企業の新しい取り組みの前には,新しいリスクが立ちはだかる。例えば国内需要の鈍化を背景にグローバル展開を進める企業は,地政学的リスクや為替変動リスクに加えて,人材の多様化と流動化に伴う人事管理上のリスクに直面している。文化・習慣・価値感が異なるさまざまな国・地域の社員に対する処遇やコンプライアンスの確保には,多くのグローバル企業が手を焼いている。国内の拠点であっても,雇用形態の多様化や人材の流動化にシステム・アクセス権の更新・制御などの仕組みが追いつかず,情報漏えいに結び付くケースも出てきている。

 また,激甚化する豪雨や大地震などの自然災害と並んで,パンデミック(世界的大流行)が宣言された新型インフルエンザも,企業活動にとって新しい脅威として台頭してきた。5月ころの報道合戦はすっかり影を潜めたが,決して事態が改善したわけではない。7月下旬時点では,全世界で13万人以上が感染し816人が死亡。日本国内では死者こそ出ていないものの,全都道府県で合計5000人弱の患者が発生している。北半球が冬に向かう9~10月以降は,国内でも大流行のリスクが高まる。顧客・従業員の感染拡大の防止策と,事業縮退や在宅勤務といった事業継続計画(BCP)の整備・確認は待ったなしの状況と言える。

 さらに,企業の業績低迷は,循環取引や不適切な金融支援,製品偽装,違法献金など,組織ぐるみ・会社ぐるみの不正取引や粉飾決算を誘発する要因になりうる。内部統制やコーポレート・ガバナンスについて,その実効性が問われることになる。また,行き過ぎた人件費の抑制は横領やインサイダー取引の発生リスクを高める恐れがあるし,人員を削り過ぎれば過労による人為ミスの発生確率が押し上げられるかもしれない。

 次々と押し寄せる多様なリスクにさらされながらも,企業はそれを恐れて立ち止まっているわけにはいかない。成長を求めて困難な時代を前進する企業に向けて,日経BP社は9月2日(水)・3日(木)・4日(金)の3日間にわたって,リスク・マネジメントの総合イベント「エンタープライズ・リスク・マネジメント(ERM:Enterprise Risk Management)2009」を開催する。

 災害,パンデミック,リーガル・リスク,情報セキュリティ・リスクなど,企業を脅かす多様なリスクについて,実情や脅威の度合い,対抗策などをセミナーや展示を通してわかりやすく詳しく紹介する。自社に大きな影響を及ぼしそうなリスクを認識・整理するとともに,いざというときに脅威から身を守ってくれる自社にとっての“夏山のダウンジャケット”をぜひ見つけ出していただければと思う。