富士フイルムは、経営のスピードを上げるため海外販社と本社を結ぶシステムを開発した。在庫・販売・生産情報を互いに共有し在庫削減やマーケティングに生かす狙いだ。従来は、昨日までの販売状況は個別に問い合わせなければ得られなかった。稼働後はデジタルカメラの製品在庫が3分の2に減るなど効果が出ている。 (文中敬称略)<日経情報ストラテジー 2007年8月号掲載>

プロジェクトの概要
 2004年当時、富士フイルムにおいて昨日までの販売や現地在庫のデータを日次で集約できるシステムの導入は待ったなしの状況だった。同社はこれまで、映像技術を中核として事業の多角化を巧みに進めてきたが、デジカメ市場の競争激化につれてコンシューマー市場、特に海外に弱いといったマネジメント上の弱点も露呈しつつあった。デジカメの半分以上を海外のコンシューマー市場で売ってはいても、販社から販売状況の報告を受けるのは月次であり、しかも販社側のデータは製品コードがバラバラで集計が難しかったのだ。新システムが完成すると早速、率先してデジカメ事業が活用推進を図ったものの、海外販社は当初、非協力的だった。直接乗り込んだ若手社員が、納期回答を着実に得たいという海外販社の不満を聞き出してシステム活用の動機を見つけ出し、活用定着への突破口を切り開いた。
定期的に開く各国の需給担当者とのミーティング。短期間の滞在のため、昼食時間を惜しんで議論(上)。デジタルカメラの主力製品である「ファインピックス」(右) (写真:稲垣純也)
定期的に開く各国の需給担当者とのミーティング。短期間の滞在のため、昼食時間を惜しんで議論(上)。デジタルカメラの主力製品である「ファインピックス」(右) (写真:稲垣純也)
画像のクリックで拡大表示

 家電市場で有利に戦いを進めようとすれば、日次で現地から販売や在庫データを収集して集計・分析する仕組みが不可欠なことは言うまでもないだろう。これがなければ、出荷量の調整はカンに頼らざるを得ず、製品の改廃や世代交代といった販売戦略を適確に立てることも難しい。

 しかし、長きにわたってライバルの少ないフィルムや感光材料で稼いできた富士フイルムは、この仕組み作りが遅れていた。海外の販売状況については月報を受け取るのみで、現地販社のシステムからデータを受け取っても、製品コードがバラバラなので集計して分析することは不可能だった。

 この弱点が、同社の多角化戦略にも影を落としてきた。確かに同社は、1990年代後半、国内デジタルカメラ市場で首位に立つなど映像関連の技術力を巧みに生かし多角化を推進している。

 デジカメ事業は2002年まで国内ではシェア首位に立てた。だが当時から海外市場への攻略ではソニーなどの後塵を拝し海外では勝ちきれなかった。さらに2003年ごろから価格競争が激化すると国内でもシェアが後退。市場のニーズをうまく捉えた新製品を出して差異化できない弱さが露呈した。

 JPモルガン証券の推定では、デジカメの世界市場における同社の2006年度シェアは6.4%にとどまり20.4%を獲得した首位キヤノンとは大差が付いた。利益面でも近年は赤字から収支トントン程度とみられている。今のシェアのままではスケールメリットが出しづらく、採算向上の見通しに疑問符が付く。「新鮮で多様な製品をスピーディーに供給して販売量を増やす施策を劇的にやらないと、利益の出る事業としての存続は難しいのではないか。富士フイルムのデジカメ製品はラインアップが単調で自社製CCD(電荷結合素子)のスペックに頼り過ぎた。薄型の形状、防水機能など様々な切り口で消費者の目に止まる製品を打ち出した他社に比べ家電市場での戦い方を知らない」とJPモルガン証券株式調査部でデジカメ業界を担当する森山久史シニアアナリストは指摘する。