イー・モバイルは,下りを最大21.6Mビット/秒としたHSPA+(high speed packet access plus)方式のデータ通信サービスを7月下旬に開始した。HSPA+は,日経コミュニケーション編集部の計測では好条件下で11.5Mビット/秒を記録。今はエリアが限られるが,都市部を中心に対応エリアを広げ,他社の新方式に対抗する考えだ。

 「パフォーマンスやエリアで十分に対抗できる」──。イー・モバイルの阿部基成執行役員副社長はHSPA+の発表会の席上で,7月に始まった「UQ WiMAX」や10月開始予定の「XGP」への対抗姿勢をあらわにした。

 HSPA+は,第3世代携帯電話(3G)で提供中のHSPAの改良版。基本的な送受信技術は変わらないが,データ変調方式を16QAMから64QAMに変更して高速化した。16QAMの場合,最小単位で一度に送信できるデータ量は4ビット。一方,64QAMでは6ビットに増える。このため,HSPAで最大14.4Mビット/秒だった速度がHSPA+では1.5倍の21.6Mビット/秒になる。

写真1●HSPA+の対応端末「D31HW」
写真1●HSPA+の対応端末「D31HW」

 ただ,従来端末は最大7.2Mビット/秒だった。これは端末の仕様上,利用できるチャネル数が限られていたため。新たに投入するHSPA+端末「D31HW」(写真1)は,64QAMに対応し,チャネルを増やして通信する。

位置を30m移動すると速度は半減

 このHSPA+の実力を知るために,日経コミュニケーション編集部はサービス開始前にD31HWをイー・モバイルから借り受け,実効速度を測定した。場所は東京・新宿駅南口付近。HSPA+の電波状態がよい屋外のA地点,そこから約30m離れたB地点,付近の喫茶店の中のC地点と3カ所で計測した。

 1Mバイトのファイルを受信する速度を計測すると,HSPA+の結果が7.83Mビット/秒となり,HSPAの2倍近い結果となった(図1)。イー・モバイルによると,通信をしながら速度を徐々に上げる仕組みを取っており,大容量データの受信の方が速度が出やすいという。試しに,A地点で50Mバイトのファイルを受信すると,11.5Mビット/秒を確認できた。ただしB地点では,HSPA+の速度は3.52Mビット/秒に落ち込んだ。本サービス開始前でもあり,HSPA+の実力を発揮できるのはごく狭いエリアに限られるようだ。

図1●従来方式と比べて約2倍の速度を記録<br>FTPサーバーから約1Mバイトのファイルを受信する速度。HSPA+を試験運用している場所で測定した。参考のために,HSPA端末「D23HW」やウィルコムのXGP端末「GX000IN」,UQ WiMAX「UD01NA」でも同じテストを実施した。
図1●従来方式と比べて約2倍の速度を記録
FTPサーバーから約1Mバイトのファイルを受信する速度。HSPA+を試験運用している場所で測定した。参考のために,HSPA端末「D23HW」やウィルコムのXGP端末「GX000IN」,UQ WiMAX「UD01NA」でも同じテストを実施した。
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年内に人口カバー率6割を目指す

 今後は,基地局の調整やセルをより狭くしていくことで,安定した速度が出るように対処していくという。

 エリア自体も拡大する。基地局のソフトウエア更改だけでHSPA+に対応できることから,UQ WiMAXやXGPよりも早い基地局展開をもくろむ。サービス開始時には東名阪や主要政令都市で対応を進めるほか,年内には人口カバー率で60%以上を目指すとしている。