UHF帯を利用したRFIDシステムに大きな転機が訪れそうだ。キッカケは,2009年7月7日に作業班が発足して実質的な審議がスタートした小電力無線システム委員会(情報通信審議会 情報通信技術分科会)における「950MHz帯中出力型パッシブタグシステムの技術的条件の検討」において,中出力という新しい枠組みの技術基準が検討されることである。ただし,出力の区分を追加するだけではビジネスへのインパクトは小さい。むしろ,中出力として想定される利用形態に合わせた利用環境(無線局の種類を含む)に関する議論の行方が注目点になるだろう。また,業界にとって悲願である周波数帯域幅の拡張まで検討が展開されると見込まれることから,UHF帯RFIDの業界にとっては2005年の解禁以来の画期的な動きに向けた議論がスタートしたと位置づけられそうだ。

 事務局を務める総務省は,956MHz~958MHzが移動業務(携帯電話),958MHz~960MHzが固定業務(放送事業者の音声番組中継),その上が航空無線航行に割り当てられているという現状を説明した上で,956MHz~958MHzの移動通信は空いているという状況を紹介した。その上で,「電子タグへの活用という部分も見ながら検討を進めていければ」と説明した。こうしたことから,作業班など小電力無線システム委員会における検討によっては,RFID用周波数の拡張へ道を大きく開くものとなりそうだ。なお,958MHz~960MHzの固定業務についても,周波数アクションプランによると,「他の周波数へ移行する(~2016年3月)」となっている。つまり,拡張幅は「短期的に2MHz,長期的にはさらに2MHz追加」というシナリオが現実になる可能性がありそうだ。

 RFIDシステムは様々な周波数で実用化が進んでいるが,中でもUHF帯はパッシブタグの中では距離が一番稼げる周波数であり,大量の普及が見込まれる最有力候補である。しかし現状は,携帯電話用周波数の中にかろうじて周波数を確保できた形であり,帯域幅は狭い。また,UHF帯RFIDシステムの運用には制限が大きい。

 RFIDシステムは,無線局の形態に注目すると大きく二つに分類できる。一つは,小出力(最大20mW:等価等方輻射電力)の特定小電力無線局のものである。これは,免許申請は不要であり,持ち運びも自由である。ただし交信距離が短く(例えば数cm~20cm程度),一括読み取りが困難であることである。もう一つは構内無線局である。こちらは,最大4Wの出力で通信距離は長い(例えば5m程度)が,無線局申請が必要であり,持ち運びにも制限がある。今回検討が行われる中出力では,ある程度の出力を確保するという技術的な検討に加えて,小電力に近い使い勝手が求められそうだ。

 例えば,日本自動認識システム協会は,7月7日の会合で,中出力型の有望な用途として,「集配・回収業務:コンビニ商品の集配・回収業務において,移動可能なリーダ装置で商品や回収容器に装着されたタグを読み書きし誤配や遅配を防止する」など,想定される様々な用途を例示した。さらには,信号機など交通インフラと組み合わせることで,「社会弱者の生活の質の向上アシスト」といった用途もあるという。いずれも,中出力に加えて「いつでも,どこでも,どなたでも使える」という利用環境の整備がセットである。

 小電力無線システム委員会の作業班では,共用条件などに加えて,利活用の方策の検討も平行して進める方針である。事務局は,「無線局種としては,全国のどこでも使えるもの,出力の大きさについては,干渉検討などの結果にもよるが,250mW程度を想定している」と説明した。