開発途上国の貧しさを、ITを利用して改善しようという動きが広がっている。その代表格が「Kiva」。担保はないが新しいビジネスを始めたい人が、簡単に資金を集められる仕組みをインターネット上に構築した。米国ではしばしば報道されているKivaの仕組みが、日本を含む世界に広がりつつある。

図1●KivaのWebサイトには融資を募る情報が多数掲載されている
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 開発途上国で融資を求める人と、資金を提供してもよいと考える人を、ダイレクトにつなぐWebサイトが注目を集めている。運営するのは非営利団体「Kiva」である。サイトには世界中からの資金提供を求める告知が100件以上掲載されている(図1)。

 その一つが、ベトナムに住む農家の主婦チョンさんが求めている525ドルの融資案件。「子豚を育てて売りたいと考えています。その元手となる資金を貸してもらえないでしょうか」とのメッセージが見て取れる。2009年7月22日の時点で375ドルが集まった。融資資金を提供したのは、米国やカナダ、ベルギー、シンガポールなどに住む一般の個人だ。

写真1●Kivaのマット・フラネリー最高経営責任者(CEO)
写真1●Kivaのマット・フラネリー最高経営責任者(CEO)

 低所得者層に少ない金額を無担保で融資する仕組みは、マイクロファイナンスと呼ばれ注目を集めている。これまでは、開発途上国の金融機関やNPO(非営利組織)が提供していた。しかしインターネットを通じて世界規模で個人から資金を募るマイクロファイナンスは、このKivaが初めて。これまでに全世界で50カ国、延べ18万人がKivaを通じて融資を受けている。2005年の設立から4年間の総融資額は8000万ドルに上る。

 多くのユーザーを獲得しているが、システムにそう大きな投資はできない。共同設立者であるマット・フラネリー最高経営責任者(CEO)は、「Linux上でApacheやPHP、MySQLを使ってシステムを構築している。現在は1日のアクセス数が5万件あるため、3台のサーバーで処理している」と話す(写真1)。ラネリーCEOは、世界的に知られた社会起業家の一人である。

ネット越しに顔が見えるから貸しやすい

 Kivaの最大の特徴は、貸し手と借り手が金銭のやり取りだけではなく、Webサイトを通じてコミュニケーションを図れることである。

 借り手は融資を募る際に、なぜ自分が資金を必要としているかを書いた文章と画像をKivaのWebサイトに登録する。自分が何歳か、子供がいるか、どれだけ困っているかなども書いて、貸し手に必要性を訴える。

 一方の貸し手は、Webサイト上にある融資希望を読み、だれに融資するかを決める。貸す場合は、クレジットカードかネット決済サービスの「Paypal」を使い25ドル単位で融資する。PaypalはECサイトなどでの支払いを代行するサービスで、あらかじめPaypalのアカウントを作っておく必要がある。

 融資後、借り手はその資金をどのように使ったか、どんな効果があったかという報告書「ジャーナル」を、KivaのWebサイトに掲載することが義務付けられている。それ以外にも、貸し手と借り手がお互いにメッセージをやり取りすることができる。

 Kivaが多くの利用者を獲得した理由について、フラネリーCEOは、「人と人が直接コミュニケーションする仕組みだから利用者は人間味を感じられる。それにインターネットなら世界中からお金を集められる」と分析する。資金を求めている人にとっても、融資をして援助したいと考えている人にとっても、負担が少ない仕組みになっている。