写真●加松 哲夫氏 バンテック 執行役員 情報システム部長
写真●加松 哲夫氏 バンテック 執行役員 情報システム部長
(写真:皆木 優子)

 当社は、貨物・自動車の国内での運送や国際輸送業務を手掛ける。運輸業界の他の企業と同様、昨年からの不況の影響を受けている。今は不況を脱したときに、攻めに転じるための我慢の時期。コストを削減しながら、ITを使った革新的なアイデアを蓄積しようと考えている。

 革新的なアイデアであれば、固定観念にとらわれず、運輸業界以外で採用されているものも取り込みたい。これは本音だ。

 今年4月には、ITの革新的な活用を目指して、イノベーション推進課を情報システム部に新設した。部員にはセミナーに参加したり、展示会に出かけたりして、新たな技術やソリューションの情報を積極的に収集させるようにしている。

 運輸業界でありふれたソリューションを採用するだけでは、競合との差異化は図れない。金融や通信など、他業界のソリューションでもできるものは、どんどん取り込んでいきたい。運輸業界を担当するITベンダーの営業担当者に限らず、他業界の担当者とも広く議論していくつもりだ。

 だから、ITベンダーには斬新な提案を求める。何も無理に奇をてらえというのではない。

 最近、情報漏えいを防止するソリューションについての提案を、ITベンダー各社に求めた。このとき、あるベンダーの提案に感心したことがある。

 多くのベンダーがUSBメモリーの利用制限機能や、操作ログの収集機能を備えるソフトを提案するなかで、オフィスソフトの利用履歴をPCの利用者ごとに、取得するソフトを使い、情報漏えいの防止目的のログを取得すると提案してきたのである。このソフトは本来、PCの利用者の生産性を測定するものだ。

 情報漏えいを防止するだけでなく、PCを使う社員の作業効率を向上できるというわけだ。一緒に説明を受けていた情報システム部員ともども、提案の内容を高く評価した。

 革新的なアイデアと併せて、即効性のあるコスト削減策も、積極的に提案してほしい。当社がITで攻めに転じるときには、原資が必要だ。

 だが残念ながらコスト削減の提案は、即効性に欠ける内容のものが多い。ITコストの無駄を探るコンサルティングにまず2億円をかけ、その後数年で5億円のコストを削減するという提案が一例だ。

 1円でもコストを減らさなければならないときに、2億円を先行投資するのは簡単ではない。5億円のコスト削減効果を得られるのが数年先というのも遅すぎる。

 コンサルティングサービスで先行して収益を上げたいというITベンダーの気持ちは理解できる。しかしすぐにコストを削減しなければならない我々の現状を認識しているのかと疑問を感じる。

 それでも提案してくれるだけましだともいえる。こちらが依頼しても、コスト削減策を提案してこないITベンダーも少なくない。

 普段から付き合いのあるITベンダーも例外ではない。コスト削減策が実現になれば、売り上げが減ってしまうと懸念しているのだろうか。

 当社にとってコスト削減は避けては通れないテーマである。結局は提案してくれたITベンダーのなかから、パートナーを選ぶ。

 ともに厳しい状況である今、協力を得られなければ、景気が上向いて攻めに転じるとき、ITを使った新しいビジネスを一緒に立ち上げていこうという気にはならない。このことは、ITベンダーには強く意識してもらいたい。(談)