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第10講:日本の多層・多神教の心象風景

2009/08/04

東京農工大学大学院技術経営研究科教授
松下博宣

 日本では神道系の信仰を持つ人々が約1億600万人。仏教系が約9600万人。キリスト教系が約200万人。その他が約1100万人。合計すると2億1500万人となり,なんと日本の総人口の2倍となってしまう。話を単純にすると,1人あたり2宗教かそれ以上。ゆえに通説では,日本は多神教の国であると言われる。

 しかし,一神教と二項対置させ多神教をとらえるのは,元来,一神教側からの見方だ。安直に日本を多神教の国と見るのはいかがなものか。多神的であると同時に,歴史を通して幾重にも宗教的なるものが埋め込まれ,積み重なり多層的な姿を形成している。すなわち,日本の宗教的な風景は多層・多神教的な姿の上に立っている。

 プロテスタント,カソリック,その他の会派を含めても,日本のキリスト教の信徒は全人口の0.8%で少数派。前の講座では,原始キリスト教の話をしつつ少々脱線してミトラ教について一言したが,日本ではキリスト教はマイノリティ,そしてミトラ教はさらに歴史の陰に隠れた微細な存在である。たぶん,読者にとってもミトラ教について読んだり聞いたりしたことのある方々は至極限られていることだろう。

 しかしながら,諜報謀略講座ではマイノリティ,歴史の隅に追いやられた存在,文明の縁にかろうじて痕跡をとどめるような密やかな存在に注目する。そうした陰に隠れたような存在から大勢,主流を逆照射することによって,通常では見えないものが立ち現れてくるからだ。

イランでは12月25日はミトラの誕生日

 年末年始の風景。クリスマス・イブの12月24日になれば,街にはクリスマス・ツリーが立ち,ジングルベルの歌が響き,商店街やレストランは人で溢れる。一週間くらいして年があけると,クリスマスを祝っていた人々はこつぜんと神社仏閣に馳せ参じ初詣をする。年末年始の一週間の風景には,日本の姿が凝縮されている。

 イラン人の方に会って親しく情報交換していた時に,面白い話を聞いた。イランでは12月25日を,シャベ・ヤルダ(Shab_e_yalda)と呼ぶ。シーア派イスラーム(イスラム教)が多数派を占めるイランでは,イエス・キリストが神の子であることも,三位一体説も断固否定される。12月25日はイエス・キリストの誕生日としてではなく,ミトラ教の幼年神ミトラの生誕祭として祝うのだ。

 キリスト教世界では陰に追いやられてきたミトラ教だが,シーア派イスラームでは習俗の古層にとどまり,現代にまで温存されてきている。イランではいまでも女の子が生まれると,ミトラ(ミスラとも発音されるが以下ミトラと表記する)から名前をとることが多い。

 これほどまでにミトラ教のミトラは,シーア派イスラームを奉じるイランの人々にとっても親近感があり,身近な存在なのである。

>>キリスト教に習合されたミトラ教
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