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クラウド・コンピューティング

「持たずに使う」コンピューター資源

2009/08/10
森重 和春=日経SYSTEMS
出典:危機から抜け出す150社 成長のヒントはここにある 2009年5月30日  p.70
(記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)

 2008年3月、米ワシントン・ポストは1万7000ページを超える書類データを前に頭を抱えていた。ヒラリー・クリントン、現・米国務長官が大統領夫人だったころの8年分のスケジュールが米国立公文書館から公開され、この情報を基に記事を書く必要に迫られたのである。紙の書類を電子化しただけのPDFデータを1ページずつ読んでいく時間はない。

 そこでワシントン・ポストはOCR(光学式文字読取装置)を使ってPDFデータから文字データを抽出することにした。必要な情報を効率的に検索するためだ。この抽出処理に利用したのが、米アマゾン・ドットコムが2006年12月から提供しているサービス「Amazon EC2(Elastic Compute Cloud)」だ。サーバーやストレージといったコンピューター資源を期間貸しする「クラウド・コンピューティング」の代表例である。

 ワシントン・ポストはAmazon EC2上でサーバー200台に相当する処理能力を確保し、抽出処理を実行した。1ページ当たり60秒、すべての処理がおよそ9時間で完了した。Amazon EC2の利用料は、わずか144ドル62セント。ワシントン・ポストは自らサーバーを購入しないで済んだ。

必要なときに必要なだけ利用する

 従来、企業が情報システムを活用するには、サーバーなどを調達しなければならず、相当な時間とコストが必要だった。クラウド・コンピューティングによって、そうした常識は一変する。企業はコンピューター資源を自ら所有せず、ネットワーク経由で使えるようになるからだ。インターネットを意味する「クラウド(雲)」の上に必要なコンピューター資源が存在するというわけだ。

 コンピューター資源を持たずに使う仕組みそのものは、目新しいものではない。例えばデータセンター事業者からサーバーを借りて自社の情報システムを動かすホスティング・サービスは以前からあった。クラウド・コンピューティングは二つの技術的な特徴から、こうした既存のサービスとは異なる革新的なものと言える。

 一つは「仮想化」をはじめとするコンピューティング技術の進化である。仮想化とは多数のサーバーやストレージを一つの巨大なコンピューター資源として扱う技術だ。これに膨大なデータを高速に処理する「分散データベース」技術を組み合わせることで、複数の企業が一つの巨大なコンピューティング資源を同時に利用できる。もう一つの特徴は、クラウド・コンピューティング上で利用企業が自前の業務アプリケーションを自由に構築する仕組みが整ってきたことだ。

 クラウド・コンピューティングのサービスは爆発的な勢いでその種類や規模が拡大している。米アマゾンのほか米グーグルや米セールスフォース・ドットコムなどが既にサービスを展開中だ。米マイクロソフトも2008年10月に「Azure Services Platform」を発表、新規参入を宣言した。国内でも新サービスが相次ぎ始まっている。コンピューター資源は持たずに使うのが常識。そんな時代の到来は、そう遠くない。

クラウド・コンピューティングで変わるシステムの開発と利用
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