経営者と,システム構築を担当するITベンダーの間には「深い溝」があると言われている。経営者はITに疎く,ITベンダーは経営をよく知らないからだ。その結果,お金ばかりかかって,経営の役に立たないシステムが出来てしまいやすい。
こうした問題を背景にして,2001年にITコーディネータの資格認定制度が生まれた。主な役割は「経営者とITベンダーをつなぐ“架け橋”」。経営とITの両方に確かな知識と経験を備え,経営課題の解決に役立つシステムの構築を支援する。
2002年にITコーディネータ(当時はITコーディネータ補)の資格を取得した吉田 誠氏は,「独立してITコーディネータになり,毎日が充実しています」と快活に話す。
8~9割は経営戦略のコンサルティング
吉田氏の主な顧客は,IT専任の担当者がいないような中小企業の経営者だ。吉田氏は経営者から持ちかけられる相談に乗り,経営戦略,IT戦略の立案から,ITベンダーを選定してシステムを導入するところまでを手助けしている。
非常に守備範囲の広い仕事だが,実は経営戦略の立案に大きなポイントがあるという。「世間ではIT関連の仕事が多いと思われているようですが,実際のところ8割から9割は経営戦略のコンサルティングです」と吉田氏は話す。
中小企業では,経営戦略がきちんとできていない場合が多い。その状況でITを導入しようとするから,目的があいまいで経営上の成果が上がらないシステムになってしまう。それを防ぐには,システム化を織り込んだ形で経営戦略を立てることが重要なのである。
必然的に,ITコーディネータには「経営」に関する高いスキルや経営者と対等に渡り合える人間性が求められる。吉田氏は,こう語る。「ITのスキルは前提条件にすぎません。ITコーディネータは技術を売るのではなく,信頼を売る,自分自身を売る,という側面があります。もし私自身が経営の難しさを知らず,相手と腹を割って話し合えるような関係を築けなければ良い提案はできませんし,経営者も納得しないでしょう」。
吉田氏はITコーディネータになるためには,自分自身が経営者であれば理想的だという。吉田氏は大学卒業後,ITベンダーに入社してPOSレジ関連のシステム開発を5年間,営業を10年間経験した。その後独立して会社を設立。約1年後にITコーディネータの資格を取得した。
「独立直後は経営面で苦労しましたが,それが良い勉強になりました。経理を自分でやり,経営データを毎日見て『数字を見る目』を身に付けられました。また,“仕事を回す”ということをはじめ,経営についていろいろ学びました」。
もちろん,会社勤めの人でもITコーディネータに必要な経験は積める。「例えば営業担当者なら,自分自身の売り上げとコストから自分の損益計算書を作り,経営者の視点で考えてみてはどうでしょうか。部下がいるなら,そのチームや部署を小さな会社と思って,マネジメントしてみるといいでしょう」と吉田氏は語る。
経営戦略とIT活用の融合を目指す
特定非営利活動法人のITコーディネータ協会が実施する「ITコーディネータ試験」に合格し,15日間の「ITコーディネータ資格認定用ケース研修」を修了した人がITコーディネータとして認定される。ITコーディネータは「経営とITの両面に精通したプロフェッショナル」として,企業の経営戦略策定に助言し,“本当に役に立つ”IT導入を目指す。活動範囲は(1)経営戦略策定,(2)IT戦略策定,(3)IT資源調達,(4)IT導入,(5)ITサービス活用など。ITコーディネータ資格認定用ケース研修では,これらの活動をロールプレイやグループ討論を通して擬似体験する。
必要なスキル
- ITコーディネータ資格
認定試験(筆記試験と15日間のケース研修)を通して学ぶ内容は,ITコーディネータとして必須の知識。 - 経営に関する知識
顧客企業が抱える経営問題を理解し,解決するために不可欠。 - 信頼を得るコミュニケーションスキル
顧客との間に,経営問題を率直に議論し合えるような信頼関係を築きあげないと,問題の本質にたどり着けない。