ファシリテーション・テクニックを極める当研究所。現場で培ってきた数々のテクニック/ノウハウの中から、即効性があるツールを紹介しています。第3回と第4回のテーマは「セッション・ゴールとアジェンダ」です。前回は主に理論を紹介しましたが、今回はすぐに使える実践方法を紹介します。

 第3回では、「セッション・ゴールとアジェンダ」の理論を紹介しました。今回は実践編として、みなさんがこのツールを現場で活かせるように、事例を交えながら、活用方法を紹介します。

●活用事例1●:To-Be業務検討会議

 例えば、業務プロセスの「あるべき姿(To-Be像)」を討議する会議は少なくありません。以下は、あるコールセンターの受注システム刷新プロジェクトにおける会議の一場面です。

小野(プロジェクトリーダー):本日はシステム刷新に向け、コールセンターの受注業務のTo-Be像について、討議したいと思います。新しい業務プロセス(案)を用意しましたので、皆さん、ご意見いただけますでしょうか。

 (一同、資料に目を通す)

太田(プロジェクトオーナー):うむ。だいたい分かった。コールセンターは、いわばわが社の『顔』だ。顧客のニーズにこたえて、売り上げを増やすためにも、「あるべき姿」は顧客目線で検討したい。猪俣君、顧客の声を聞かせてくれ。

猪俣(コールセンター・スーパーバイザー):最近、お客様から納期に関するクレームを頂戴することが多く、注文後のキャンセルがとても増えています。いったん注文を受け付けた後に物流センターから「実は在庫がない」という連絡が入るなど、欠品が後から判明するケースが多くて。
 その後の顧客対応にも時間がかかり、結果としてキャンセルとなっています。こちらでは在庫状況がリアルタイムにわからないので、どうしても対応が後手に回ってしまいます。

太田:なるほど。それは確かに問題だな。適正在庫の問題でもあるが、なぜコールセンターで在庫状況が把握できないんだ?北出くん、うちのシステムはどうなってる?

北出(情報システム担当):最新の在庫情報を持つ基幹システムとコールセンターの受注システムでは、実は在庫情報は別々になっています。在庫連携は日次バッチですので、受注状況によっては在庫情報にズレが生じることがあります。コールセンターのオペレーターが基幹システムで在庫を確認できればよいのですが、セキュリティ上、好ましくありません。

猪俣:それに2つのシステムを同時に使うとなると、業務効率が落ちますよ。オペレーターの教育にも時間がかかるし。

太田:うーむ。在庫情報の連携頻度を増やせないのか?

北出:今のサーバーの処理能力では限界です。サーバーを増設したいのですが、今年は予算がないので・・・。

太田:他に対応策はないのか。適正在庫の観点でも検証してみないとな。

小野:・・・(今回は現状の課題ではなく、コールセンター業務のあるべき姿を検討したかったのに)

 このケースでは、「To-Be像を作ること」が会議の目的だったのに、いつの間にか「現状の課題解決」が議論のテーマになってしまいました。発言力のあるメンバーの一言で議論のテーマが当初の意図とぶれることは、みなさんの会議でもよくあることではないでしょうか。

 現状の課題についての議論は、それ自体まったく問題ありません。ですが、プロジェクト全体の進行と会議の目的を考えると生産的ではありませんね。また、参加者の意識が「目の前の課題」に引っ張られることも議論がぶれてしまう原因の一つです。

 このようなときにも「セッション・ゴールとアジェンダ」は役に立ちます。参加者の意識が討議すべきテーマに集中できるように、効果的な議論のプロセスを、アジェンダにあらかじめ組み込んでおきましょう。