本連載の第2回でも述べたように,次世代のコア・ネットワークでは,既存の無線システムと,LTEや4Gなどの革新的な無線システムを一つのネットワークで収容することが求められている。これを実現するネットワークのため,3GPPにおいてSAE(system architecture evolution)という名称で検討が開始され,その結果,次世代オールIPネットワークとしてEPC(evolved packet core)が3GPP Release8の標準仕様として規定された。以下,本稿ではまとめてSAE/EPCと表記する。

 SAE/EPCは,LTEを主眼として,既存の3GPPや3GPP2,無線LAN,WiMAXといったさまざまな無線アクセスも収容する共通のコア・ネットワークである。これを実現するため,基本制御技術を汎用的なIP技術として取り入れることにより,無線アクセス方式に依存することなく,広く応用が可能となるネットワーク・アーキテクチャを構成している。

 ここでは,LTEおよび3G無線の収容に着目したSAE/EPCネットワーク・アーキテクチャについて説明する。

 まず,従来ネットワークの構造と比べた特徴として,ユーザー情報が経由するノード数を削減していることが挙げられる。従来のパケット・ネットワークでは,中継パケット交換機(GGSN),加入者パケット交換機(SGSN),無線ネットワーク制御装置(RNC)の3階層でユーザー・データを伝送していた。これがSAE/EPCでは,PDN(packet data network)ゲートウエイ装置(P-GW)と,サービング・ゲートウエイ(S-GW)の2階層に集約した。従来のRNC機能を,SAE/EPCではモビリティ・マネージメント装置(MME)とS-GWに再配備することにより,よりフラットなネットワーク構造になっている。

 次に,SAE/EPCネットワークを構成する主な装置を簡単に説明する(図4-1)。

図4-1●LTE/3G無線収容におけるSAE/EPCアーキテクチャ<br>SAE/EPCは3Gなどの既存の無線システムと,LTEなどの新しい無線システムを 一つのネットワークで収容するためのネットワーク・アーキテクチャである。
図4-1●LTE/3G無線収容におけるSAE/EPCアーキテクチャ
SAE/EPCは3Gなどの既存の無線システムと,LTEなどの新しい無線システムを 一つのネットワークで収容するためのネットワーク・アーキテクチャである。
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 S-GW(serving-gateway)は,LTEおよび3G無線などの3GPP無線を収容し,ユーザー・データを伝送する装置である。LTEと3G無線アクセス収容網へのユーザー・データ転送経路を切り替えるポイントでもある。

 P-GW(PDN-gateway)は,iモードやIMS(IP multimedia subsystem)といったコア・ネットワーク外のパケット・ネットワーク(PDN:packet data network)との接続点となる。IPアドレスの割り当てなどを行うとともに,3GPPアクセスおよび非3GPPアクセスを収容するゲートウエイ装置である。

 PCRF(policy and charging rules function)は,P-GW,S-GWにおいて適用する,QoSなどのポリシー制御や課金制御ルールを決定するポリシー制御装置である。P-GWおよびS-GWは,PCRFからの通知情報に基づき,パケット単位にポリシー制御を実施する。

 MME(mobility management entity)は,LTE無線アクセスにおける端末の移動管理,認証(セキュリティ制御)およびS-GWとeNodeB区間におけるユーザー・データ転送経路の設定処理,制御信号を受け持つ。

 SGSN(serving GPRS support node)は,MMEと同様に3G無線アクセスにおける端末の移動管理や認証(セキュリティ制御)などを行う装置である。このほかにも,LTE-3G無線切り替え時に通信を継続するため,LTE/3Gデュアル端末の通信経路の設定時にはSGSNよりS-GWへ接続する機能を提供する。