LTEに限らず,標準化の作業においては一般に,実現すべき目標として要求条件をまず設定し,これを実現する技術は何がふさわしいか,という形で作業が進められる。LTEでは,NTTドコモを含む世界各国の主要な通信事業者を中心に活発に議論を進め,2005年に要求条件が合意された。その内容は3GPPの仕様となり,技術レポートとして公開されている。

 LTEの無線インタフェースに関する要求条件は,3GのW-CDMA(wideband CDMA)や3.5GのHSPA(high speed packet access)に比べて,チャレンジングな内容となっている(表2-1)。ここでは主な要求条件として,(1) 可変帯域のサポート,(2) PS(packet switched)ドメインのみのサポート,(3) 遅延の低減,(4) 3GPP RAT(radio access technology)との共存,(5) 周波数利用効率,(6)最大データ伝送速度――の六つを解説する。以下,それぞれについて順に見ていく。

表2-1●LTEとW-CDMA/HSPAとの違い
主な項目についてまとめた。
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表2-1●LTEとW-CDMA/HSPAとの違い<br>主な項目についてまとめた。

複数の可変帯域をサポート

 LTEの要求条件として,複数の帯域をサポートすることが求められている。具体的には,1.4MHz, 3MHz, 5MHz, 10MHz, 15MHz, 20MHzの6種類がある。ここでいう帯域とは,一つの基地局で運用する周波数帯域のことである。一般に帯域が広いほど,データの伝送速度や収容するユーザー数を高めやすい。

 複数の帯域をサポートしていることで,事業者は周波数状況,トラヒック状況などを考慮して必要な戦略を打つことができる。なお,現在のW-CDMA/HSPAでは5MHzを使用する。

 また,最初に受信すべき共通チャネルの(周波数軸上の)位置は,運用帯域に依存せず共通化している。共通チャネルとは,端末が基地局をサーチしたり,通信に必要な情報をやりとりしたりするために使う帯域である。最初に受信すべき共通チャネルを共通化することで,端末は運用帯域を意識せず,基地局を見つけることができる。端末の負荷を抑えることになる。逆に共通チャネルの帯域が異なると,端末はすべての帯域のパターンで検出を試みる。その時間を短縮するためには同時に複数のサーチを行うことになり,端末の構成が複雑になってしまう。

データ通信に特化してPSドメインのみをサポート

 FOMAなどの3Gでは,音声通信などに用いるCS(circuit switched)ドメインと,データ通信用のPSドメインの両方をサポートすることが求められている。LTEでは,システムをシンプルにし,コストの大幅な削減を実現するために,PSドメインのみをサポートしている。

 音声はVoIP(voice over IP)でサポートする。ただし,音声パケットはデータ・パケットに比べてサイズが小さく,かつ周期的に発生する。そのつどリソース割り当てを行うと,そのための制御信号のオーバーヘッドが大きくなってしまう。LTEでは,このオーバーヘッドを抑えられる効率のよい割り当て方法が採用されている。

チャレンジングな遅延時間の目標値を設定

 伝送速度が同一のシステムを比較した場合,ネットワークによる遅延が大きいと,反応が悪いと感じるときがある。実際,従来の無線通信システムでは,無線伝送に要する処理遅延が比較的大きかった。

 LTEでは低遅延化を実現することにより,無線通信/移動通信を意識することなく,有線で接続したときと同じ感覚で通信できることを目標とした。これにより,対話型ゲームや機器の遠隔操作といったこれまで遅延が問題となっていたアプリケーションへの期待が高まった。

 ネットワークの遅延は大別すると「接続遅延」と「転送遅延」の二つになる。接続遅延は,通信を開始する際にネットワークとのコネクションを設定するのに要する時間である。転送遅延は,通信中に無線ネットワーク内でデータを転送するのに要する時間となる。

 LTEでは接続遅延を100ミリ秒, 転送遅延(片側)を5ミリ秒という目標値を設定した。これは他のモバイル・ブロードバンド方式よりも大幅に小さく,チャレンジングな目標値である。また3Gでは要求条件がなく,運用しだいで異なるが,遅延時間のオーダーとしては1桁以上になる。LTEでは無線フレームの最適化,信号の簡略化などによって,大幅な遅延の削減を実現する。