2009年6月10日,総務省は3.9世代と呼ばれる移動通信システム(3.9G)について,新しい周波数の指定とともに,各社から申請のあったすべての開設計画を認定した(表1-1)。そのうちの1社がNTTドコモである。NTTドコモの採用技術はLTE(long term evolution)だ。LTEは,各社の開設計画で採用されるほか,日本のみならず世界的に最も注目されている方式である。

表1-1●3.9世代の移動通信システムとして認可された各社の開設計画の概要
出典は総務省の報道資料「3.9世代移動通信システムの導入のための特定基地局の開設計画の認定」。
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表1-1●3.9世代の移動通信システムとして認可された各社の開設計画の概要<br>出典は総務省の報道資料「3.9世代移動通信システムの導入のための特定基地局の開設計画の認定」。

 本連載では,LTEはなぜ必要で,何ができるのか。どういう技術特徴があるのか,いつから使えるのかといった疑問に対して,技術的な観点から解説する。

 第1回の今回は,LTEという概念が提案されるに至った背景と,実用化に向けたシナリオを紹介する。続く第2回では,LTEで目指す目標として,標準化ではどのような条件が求められたのかを整理する。そして第3回では,その条件を実現するための要素技術,第4回ではLTEを収容するネットワークについてそれぞれ解説する。最後の第5回では,2010年の商用化に向けた現在の状況について紹介する。

ユーザーのニーズに応えるためには革新的な技術が必須

 現在,NTTドコモの第3世代携帯電話(3G)サービスである「FOMA」では,音声サービスに加えて,最大伝送速度が384kビット/秒の移動体データ通信サービスを2001年から提供している。その後,下り方向(基地局から端末へ)が最大3.6Mビット/秒の「FOMAハイスピードサービス」を2006年に開始。最大伝送速度はその後のソフトウエアのアップデートにより7.2Mビット/秒に高速化され、現在に至っている。

 FOMAハイスピードサービスで採用している技術規格は,下り方向がHSDPA(high speed downlink packet access),上り方向(端末から基地局)がHSUPA(high speed uplink packet access)である。規格上の最大伝送速度は,下りが約14Mビット/秒, 上りが約5.7Mビット/秒となる。これによりFOMA導入時の最大データ通信速度384kビット/秒に比べると,37.5倍もの高速化が可能になる。

 とはいえ,データ・トラフィック需要の増大,およびコンテンツ大容量化はとどまるところを知らず,その一方で低料金,さらには定額制の要求も高まっている。これに対応するには,事業者としてより一層のビット・コストの削減が重要な課題である。

 加えて,インターネットや企業ネットワークで一般的なTCP/IP(transmission control protocol/internet protocol)を,携帯電話ネットワークにおいてユーザーがストレスなく利用できるようにするためには,伝送速度を速くするだけでは不充分である。ネットワークにつながるまでユーザーを待たせない(接続遅延の低減),つながってからも応答で待たせない(伝送遅延の低減)といったこともまた,事業者にとって重要な課題である。これらの課題を効率よく実現するため,第3世代の枠にとどまらず,第4世代まで含めた革新的な技術が必須となる。