ちょっと古い本ですが,米国のポール・ファッセル氏が著した「階級(クラス)―『平等社会』アメリカのタブー」(光文社)によると,米国では社会階層によって夕食時間が異なるそうです。

 下層階級は夕方5時半に夕食を済ませます。その上の労働者階級は夕方6時~6時半に,大半はビールと一緒に夕食をとります。中流階級は夜7時~7時半に食卓を囲みます。上流階級になると,夜9時以降に食べます。この時間まで夕食を待てるのは,アフタヌーン・ティーをしているからです。

 日本ではどうでしょうか。夕食を夜9時過ぎにとる人も少なくないでしょう。しかし残念ながら,アフタヌーン・ティーを楽しんでいるからではありませんね。長時間労働や遠距離通勤などが原因になっています。

遅い夕食は夜更かしの原因になる

 どうして夕食の話をしたかというと,睡眠と大いに関係があるからです。夕食後2時間経つと,胃袋は空になり眠気が生じ始めます。つまり,夕食が遅くなると,睡眠時刻も遅くなるのです。夕食を夜9時過ぎにとることは,夜遅くまで眠れない原因になります。

 インターネットを使ったある世界的な世論調査によると,真夜中(午前0時)過ぎまで起きている人は全体の37%です。これに対して,日本人では60%を占めます。この数字は,米国人(34%)や欧州人(32%)に比べて極端に多いのです。

 日本人の就寝時刻が遅いことは,テレビ番組にも表れています。夜10時台は,各テレビ局の目玉報道番組が放送されます。しかしニュージーランドでは,大半の人がその時間帯に寝てしまいます。働く人の平均就寝時刻が夜10時半なのです。米国人も早寝・早起きとして知られています。学校は朝8時始業が多く,郵便局なども8時から営業しています。ビジネスパーソンの間では,朝7時台のブレックファースト・ミーティングも一般的になっています。早寝・早起きはビジネス・チャンスを増やす,というわけです。

夜型は健康に良くない

 人の1日の生活リズムは,「朝型」と「夜型」に分かれます。早寝早起きの習慣がある人を朝型,,夜更かし・朝寝坊が身についている人のことを夜型といいます。日本人は明らかに夜型です。長時間労働が常態化しているITエンジニアはおそらく,夜型の傾向がさらに高いのではないかと思います。

 夜型は健康に良くありません。日の出とともに目覚める朝型は,本来の人間の生体リズムです。朝型の生活をすることによって,心と身体の調和が保たれ,考え方が前向きになります。激務のなか,健康を保つことにもつながります。朝型は,できるITエンジニアに必要な条件です。

 では朝型になるには,どうしたらよいのでしょうか。それには,がんばって早起きするのが最良の方法です。以前にも話しましたが,人の1日の生体リズムは,24時間と25時間の間の周期でできています。例えば24.5時間なら,毎日30分ずつ遅れます。どこかで24時間の周期に調整する必要があります。この調整は,朝日を浴びることで行われます。目に入った光が脳の時計中枢に達し,血中のメラトニン濃度を変えます。ですから,早起きして朝日を目に入れることが大切です。すると身体の調節をしている生体リズムの歪みが直ります。

 それでも「早起きはつらい」という人が多いでしょう。早起きするには夜早く寝ることが重要であり,それには夕食を早めにとることが肝要です。生活のリズムを少しずつ前倒ししていきましょう。

田村 康二(たむら こうじ)
田村 康二(たむら こうじ) 医師,医学博士。立川メディカルセンター(新潟県・長岡市)常勤顧問。内科,循環器病,時間医学などが専門で,著書に「生体リズム健康法」(文藝春秋社),「健康安心ノート」(和泉書房)などがある

■変更履歴
『次回は「睡眠時間は短くできる!?」についてお話しします。』としていましたが,都合により連載は終了させていただきます。本文は修正済みです。 [2010/09/28 20:00]