キユーピー仙川工場が現場主導の改善活動「夢多゛(むだ)採り活動」を開始して5年が経過した。当初は冷ややかな反応が目立ったが、2人のリーダーが粘り強く活動を推進。活動状況を褒めて回ることで、不満を押し込めていた従業員の心に風穴を空けた。活動は全社的な取り組みに発展し、品質の向上や人材の育成につなげている。 (文中敬称略)<日経情報ストラテジー 2009年3月号掲載>

プロジェクトの概要
 大規模設備を自前で開発し、2000年ごろまで少品種大量生産の体制を敷いてきたキユーピーの仙川工場(東京都調布市)。従業員の意識を、「設備ありき」から「現場の人ありき」へと変える必要があった。しかし、現場にアイデアを出させる場であるQC(品質管理)サークル活動はマンネリ化が進み、効果的な案が出にくくなっていた。
 そこで2003年、「60点でいいからまずやってみる」をモットーに掲げた現場主導の改善活動を開始。「ムダを取ることで夢を多く採る」という意味を込め、「夢多゛採り活動」と名付けた。当初こそ現場の理解を得られず反発を受けたが、2人のリーダーの粘り強い姿勢が次第に共感を呼び、活動が広がっていった。2005年には他工場へと横展開が始まり、キユーピーの全社的な取り組みへと発展している。
チューブに充てんし、キャップを締めたマヨネーズ。キャップが正しく締まっているかをチェックしている(左)。分速600個の速度で卵を割る自社開発の割卵機(右) (写真:後藤 究)
チューブに充てんし、キャップを締めたマヨネーズ。キャップが正しく締まっているかをチェックしている(左)。分速600個の速度で卵を割る自社開発の割卵機(右) (写真:後藤 究)
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 2008年11月26日、マヨネーズなどを製造するキユーピーの仙川工場(東京都調布市)は熱気に包まれていた。2003年から取り組んできた現場主導の改善活動「夢多゛(むだ)採り活動」の成果を、実際に活動するメンバーが日産自動車や横浜ゴムなど社外の現場担当者20人あまりの前で発表したのだ。

 入社2~3年目の若手から課長級まで、皆が生き生きと改善活動にかける思いを語る。その光景を眺めていた仙川工場次長の加藤英巳は、5年間の取り組みが間違っていなかったと確信した。

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 夢多゛採り活動は業務に潜むムダを取り除いて価値を高める「インダストリアル・エンジニアリング(IE)」の手法を応用した改善活動。現場の作業負荷の軽減に焦点を当ててムダを取り除き、その結果として品質や生産性の向上を図る。

 活動には社員だけでなく、パート従業員らを含む職場の全員が参加する。上から押しつけることはせず、あくまで現場が主体的に活動に励む。夢多゛採りという言葉は、単なるムダ取りではやらされ感が残ることから、わくわく感をもたらす夢という意味を込めて名付けた。

 夢多゛採り活動による改善件数は年を追うごとに増え、2008年には1000件を突破した。作業時間の短縮などによる生産性改善効果は2008年単位で約6000万円に達した。同工場を対象とする消費者や取引先からのクレームは年間で数件と、活動を始める以前の半分以下になった。

設備ありきから人ありきに意識を変える

 夢多゛採り活動のきっかけを作ったのは、2003年当時の仙川工場長で現・取締役生産本部長の勝山忠昭である。仙川工場長に就任した勝山は「設備ありきではなく、現場の人が改善を考える風土に変えたい」との課題を感じていた。