セミナー「自民党と民主党に情報通信政策を聞く」会場
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 「NTTの経営形態の議論にエネルギを費やすのは無駄」(自由民主党の参議院議員 世耕弘成氏),「日本版FCC(放送・通信委員会)を設置し,放送・通信行政を総務省から移管する」(民主党の参議院議員 内藤正光氏)---。NPO 情報通信政策フォーラムとNPO マニフェスト評価機構は2009年7月24日,「自民党と民主党に情報通信政策を聞く」題するセミナーを開催した。自由民主党(自民党)と民主党の国会議員が,両党のIT政策に関するマニフェスト(選挙公約)像を語るとともに,参加者からの質問に答えた。

自民党:NTTの経営形態の議論にエネルギを費やすのはムダ

自民党の参議院議員 世耕弘成氏
自民党の参議院議員 世耕弘成氏
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 自民党の世耕氏は,「自民党のマニフェストはまだ作成中だが,情報通信についてはおそらく今からお話することと大きく変わらないだろう」と前置きし,政府・与党のIT政策を説明した。

 2006年6月20日,竹中平蔵総務大臣(当時)の私的懇談会である「通信・放送の在り方に関する懇談会」(いわゆる竹中懇談会)が作成した答申をもとに,与党合意がまとまった(関連記事)。「この与党合意が現在の情報通信政策を語るにあたって原点になっており,政府・与党の情報通信政策は,ここに書いてあることをベースに着実に動いている」(世耕氏)。

 与党合意には大きくNHK,放送,(通信と放送の)融合,通信の4項目がある。

 このうち融合に関しては「通信と放送に関する総合的な法体系について,基幹放送の概念の維持を前提に早急に検討に着手し,2010年までに結論を得る」こととなっている。

 通信に関しては「高度で低廉な情報通信サービスを実現する観点から,ネットワークのオープン化など必要な公正競争ルールの整備等を図るとともに,NTTの組織問題については,ブロードバンドの普及状況やNTTの中期経営戦略の動向等を見極めた上で2010年の時点で検討を行い,その後速やかに結論を得る」と書かれている。

 「融合関連では来年までに結論を得るということは,今年から議論をしていかなければいけない。通信については来年から検討を始める」(世耕氏)。

「大きな方向転換」,情報通信の法体系を再構築

通信・放送の新たな法体系のイメージ(総務省の資料より引用)
通信・放送の新たな法体系のイメージ(総務省の資料より引用)
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 2009年6月19日,「通信・放送の総合的な法体系の在り方」と題する答申が,「通信・放送の総合的な法体系に関する検討委員会」から出された(関連記事)。「ここには非常に大きな方向転換が入っている」と世耕氏は言う。

 「情報通信の法体系は,大きく9本の法律が縦横バラバラにできている。非常に使い勝手が悪い」(世耕氏)。放送関係では放送法,有線ラジオ放送法,有線テレビジョン放送法,電気通信役務利用放送法の4本。通信関連では電気通信事業法,NTT法,有線放送電話法の3本に加え青少年インターネット環境整備法,プロバイダ責任制限法がある。伝送設備関連は無線を扱う電波法と有線を扱う有線電気通信法の2本がある。

 「技術が同じであるにもかかわらず,放送用の無線設備は通信に使えないし,通信用の無線設備は放送に使えない。これを抜本的に改善する」(世耕氏)。縦横が入り組む法律を,横の3つのレイヤーで整理するという結論を出した。コンテンツを司る法律,伝送サービスを司る法律,伝送サービスを司る法律の3層構造である。

 「特に伝送設備を司る法律については,電波利用を柔軟にしていく。放送だろうが通信だろうがご自由にお使いください,という形にしていこうとしている。アメリカでホワイトスペース(ある地点で使われていない周波数)の活用が進められている(関連記事)が,日本でもホワイトスペースの活用を議論していく」(世耕氏)。

 伝送サービスを司る法律については「イメージとしては,今ある電気通信事業法を核として,通信と放送を一体で乗っけていく」(世耕氏)ものになるという。

 その上に載るコンテンツについては「放送法をベースにした法体系にしてはということを議論している」(世耕氏)。

 そして「この3つのレイヤーを作った上で,いわゆる放送事業者,通信事業者が自由に組み合わせを選択できるようにする。強制的にスライスするとか,垂直統合するとかそういう話ではなくて,あくまでも経営者がそれぞれの判断で選択していってもらう。例えば,ある通信事業者がもう設備が重いからコンテンツに特化するということも可能,その逆も可能。経営陣が自由に組み合わせを選んでいける」(世耕氏)。

3か年緊急プランで3兆円をIT分野に

 2009年4月9日,政府のIT戦略本部から「デジタル新時代に向けた新たな戦略~三か年緊急プラン~」が出された(関連記事)。「このプランには経済危機対応のニュアンスが色濃く出ている」(世耕氏)。

 「3か年緊急プランでは3兆円を情報通信分野に投資し,これにより50万人の雇用を作る。その中で,3大重点プロジェクトである『電子政府』,『医療』,『教育』に集中投下をしていく。グリーンITでも,エネルギの管理にITを使っていくことにより雇用を生み出していこうとしている。ブロードバンドゼロ地域は今回の補正予算で解消する」(世耕氏)。

 集大成として2009年7月6日にまとめられたのが「i-Japan戦略2015」であるという。電子私書箱による電子政府の推進,霞ヶ関クラウドの構築,自治体と連携したユビキタス・タウンの整備も行う。電子私書箱は2013年までの整備を目指し,2009年度中に基本構想を策定する。「これを軸に与党の政策が決まっていく」(世耕氏)。