NTT 環境エネルギー研究所
主幹研究員
染村 庸

 前回は,ICTの普及にともなって地球環境に及ぼす問題を中心に述べた。第2回の本稿では,ICTの活用による温室効果ガス(特にCO2)の削減取り組みである「Green by ICT」の具体的な活用シーンと削減効果の試算例,及びICT機器そのものの省電力化の取り組みである「Green of ICT」の事例を紹介する。

 ICTが環境に与える影響には,「プラスの要因」と「マイナスの要因」がある。「マイナスの要因」の一つとして,ICTの普及にともなうエネルギー消費やCO2排出の増加があるが,これを削減するためには,ICT分野自体の省エネ化(Green of ICT)が必要である。一方,「プラスの要因(Green by ICT)」とは,ICTを利活用することにより,生産・消費・業務活動の飛躍的な効率化,交通代替や渋滞緩和等が可能となり,結果的にCO2排出削減に貢献することをいう。
 
 ICTは必ずしもCO2排出量削減を目的として導入されるものではなく,通常はサービス向上,業務効率化やコスト削減等を目的として導入されるが,このように,結果としてCO2排出削減に貢献することが可能である。
 
 Green by ICTには,主に次のようなものがある。(図1

図1●ICTの活用によって期待される環境負荷の削減効果
図1●ICTの活用によって期待される環境負荷の削減効果
生産・消費・業務活動の効率を向上させたり,交通渋滞を緩和することでCO2排出量を削減する効果が期待できる。また,ICTを活用すれば,環境計測や環境予測が可能になり,温暖化問題の解決に貢献できる。出典:総務省「地球温暖化問題への対応に向けたICT政策に関する研究会」(平成20年4月)。
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1. エネルギー利用効率の改善:
(1)ITS(高度道路交通システム)により,車内でリアルタイムに渋滞情報や規制情報などの道路交通情報を知ることができ,カーナビが渋滞を避けた迂回路を再検索したりすることで自動車の平均速度が向上し,その結果燃費が向上する。また,ETCや信号機の集中制御などによって交通渋滞の解消が可能になる。

(2)BEMS(ビルエネルギー管理システム)やHEMS(家庭用エネルギー管理システム)によって,ビルや住宅の照明や空調をきめ細かく制御して,必要な快適性を維持しながら省エネを達成することが可能になる。

2. 物の生産・消費の効率化・削減:
(1)サプライチェーンでは需要と供給のバランスのとれた効率的な生産を可能とし,物流においては積載効率の向上と最適な配送ルートの選択,一般家庭でのカーナビゲーションによる生活環境の向上などにより,無駄なエネルギー消費を削減できる。
(2)音楽配信のように情報を電子化し流通させることにより,CD等の記憶媒体の使用をなくして,記憶媒体を製造するエネルギー消費量の削減が可能となる。
(3)ペーパレスシステムや電子書籍などのように,紙に記録した情報を電子化すれば,紙の消費の削減につながるだけでなく,作業スペースや文書の保管場所が不要となる。

3. 人や物の移動の削減:
オンラインショッピング,オンライン取引,テレワーク,TV会議,音楽・映像ソフト配信,電子申請(税申告・オンラインレセプト)など

(1)テレワークを導入することにより,業務の効率化向上に資するとともに,通勤のための自家用自動車の利用等が減少し,人の移動を削減することができる。
(2)同様に,TV会議やe-ラーニングなどバーチャル空間の利用により,不必要な出張移動が減少する。このため,交通機関の燃料消費が少なくなり,CO2排出量が削減される。
(3)音楽や映画,ソフトウェア等を配信することで,紙やCDやDVDといった媒体やその輸送が不要となり,結果的に輸送に関わるエネルギー削減が期待できる。

4. 環境計測・環境予測:
(1)CO2計測用レーダ,センシングネットワーク,地球シミュレータ,GPSによる位置情報把握等の地球温暖化関連情報の収集・分析への貢献にも期待が高まっている。これにより,自然環境を包括的にカバーする地球環境観測や環境予測が可能になり,環境に関する情報が可視化される。
(2)また,環境情報が流通することで環境意識が高まり,エネルギー消費量の少ない行動を促すことができる。