クラウドコンピューティングと自前システムの整合

 私は情報システムの再構築に当たって、「持たざる経営」をシステム構築のフィロソフィーとしてきた。それは重装備な社内のコンピュータルームに足を踏み込んだ時からの実感である。そこに企業としての価値は感じられない。いずれ外部のサービスがそれに代わるものを提供するようになるだろうという確信のようなものがあった。

 ニコラス・カーが2003年に「IT Doesn’t Matter」を、2005年に「The End of Corporate Computing」を発表し、企業のコンピュータ像を示唆したことには著しい共感を覚えた。そして時のキーワードになっているクラウドコンピューティングは正にその方向性を象徴するようなものだ。実際に機器類をデータセンターに移し、パソコンの全国サポートをアウトソーシングし、パートナーとの情報共有環境をSaaS(サービスとしてのソフトウエア)モデルのアウトソーサーに委託したことによって大きなコスト削減の軸ができた。アウトソーシングの勧めを実践したものだ。

 一方、自前主義を言い続けたことがある。ソフトウエアを自前で作れる力量の社内温存だ。システム部門で自らコードを書ける人材が少なくなっている。SIerと呼ばれる大手のベンダーでも実態は同じではないのか? 自ら試行錯誤して得る知恵は伝授されるものとは異なる。それは新しい技術に対する選択眼を養い、外部サービスの真贋(しんがん)を見極め、ソフトウエアの価値を評価できることになる。この評価力が無駄取りのコスト削減に繋がるのだ。簡単なものや自分たちの管理ソフトは自前で作ればいい。そのための簡易なツールや手法を取り入れることもいい。