英BTグループ テクノロジー&イノベーション 日本・韓国担当副社長 ヨン・キム 英BTグループ テクノロジー&イノベーション
日本・韓国担当副社長
ヨン・キム

 世界中で放送事業の将来についての議論が盛んである。マス広告を中心としたこれまでの放送事業のビジネスモデルでは,もはや収入増が見込めなくなっているからだ。

 例えば英国では映像をハードディスクに記録する「PVR」(personal video recorder)が人気だ。既に4世帯に1台の割合で普及し,2012年には普及率70%になると予測されている。PVRの浸透によって,放送事業の利益を生み出してきたスポット広告がこれまで以上に減少するのは目に見えている。

 こうした状況もあり,英国では日本の総務省にあたるOfcomが昨年から“デジタル社会の到来に向けて(Preparing for digital future)”という名目で,放送産業の見直しに取り組み始めた。併せて事業者側も,放送と通信の垣根を越えた連携が加速している。

業種を超えた動画配信基盤を構築

 英国の無料公共放送(Public Service Broadcasting,英国はすべての地上波放送が公共放送という位置付け)の分野では,放送事業者である英BBC,英ITV,そして通信事業者である英BTが,公共放送の生き残りとブロードバンド回線の販促を狙い,昨年「プロジェクト・キャンバス」というジョイント・ベンチャーを立ち上げた。2010年初頭までにブロードバンド回線を利用した無料の動画配信プラットフォームの構築を目指している。

 このプラットフォームは,ほかの放送局やコンテンツ・プロバイダ,インターネット接続事業者(ISP)も利用できるオープンな形で構築する。これによってあらゆるプレーヤが直接視聴者とコンタクトできるようになる。これはコンテンツ・プロバイダにとって大きなビジネスチャンスになるだろう。当然,番組内容の切磋琢磨が起こり,質の向上につながる。視聴者には,テレビ放送以外の選択肢が増えるというメリットをもたらす。

 一方で,無料公共放送と比べて将来が明るいと言われる英国の有料放送分野にも改革の動きがある。英国の有料放送業界は,英スカイと英ヴァージン・メディアという有力事業者が市場の95%を占有している。Ofcomは市場の独占を良しとせず,消費者の選択の幅を広げる政策を打ち出している。例えばスカイは,英国サッカーのプレミア・リーグなどの“プレミア番組”をIPTVのなどの競合サービスに提供する規制を施されている。

 多くの会社がひしめき合い成熟市場となっている通信業界にとって,この有料放送の市場はチャンスだ。英BTやそのほかのブロードバンド企業は,まだ成長の余地があるこの分野に本格参入しようとしている。通信と放送の境目は,もはや無くなりつつある。

 思えばこれまでの通信事業者のビジネスモデルは,すべて技術開発に基づいていた。しかし私たちのこれまでの経験から得た教訓は,多くの選択肢から消費者が自由にサービスを選べる市場を作ることこそ重要という点だ。放送局や通信事業者といった枠を超えて,新たな市場に取り組むべきだろう。

ヨン・キム(Yung Kim)
英BTグループ テクノロジー&イノベーション
日本・韓国担当副社長
 英BTに27年以上勤務してきましたが,このたび退職し,7月から韓国KTに勤めることになりました。35年を経て自分の生まれた韓国に帰国することに胸躍るものがあります。KTは固定と携帯ビジネスを統合し,以前と全く違う組織になっており,大いに期待しています。もちろん様々なことがあるでしょうが,KTが成功すれば通信業界にとって新たな道を指し示すと考えています。これまでのご愛読に深く感謝いたします。お元気で。My Best Wishes for Your Future!