経営者にとって、情報システムは頭痛の種になりがちだ。業務に必須だが投資に見合った効果が出るとは限らない。ほかの設備投資に比べて専門的で難解でもある。

 野村総合研究所で約20年間勤務した後に、人材派遣大手スタッフサービスのCIO(最高情報責任者)を務め急成長を支えた著者が、ベンダーとユーザー両方の視点から、“システム屋”の思考回路と、上手な付き合い方を説く。

 第19回前回(第21回)では、私が“システム屋”と呼ぶIT(情報技術)ベンダー・システムインテグレーターにおける人件費にまつわる問題を指摘してきました。

 今回は視点を変えて、IT業界でよく聞かれる「CIO」という言葉に触れたいと思います。ユーザー企業の情報システム部門に所属する若い人から、「目標はCIOになること」という声を聞くことがあります。これには違和感があります。

 CIOとはChief Information Officer(最高情報責任者)の頭文字を取ったものです。CEOすなわちChief Executive Officer(最高経営責任者)や、CFOすなわちChief Financial Officer(最高財務責任者)などと一緒に、1990年代に欧米から輸入された概念です。

“超大企業”以外にCIOは必要か?

 CEOやCFOとは違い、CIOの存在に意味がある組織はかなり限られ、3種類ぐらいしかないというのが私の考えです。

 1つ目として、グローバル展開する超大企業では、CIOの存在に意味があるかもしれません。強い事業部門がいくつもあり、子会社や海外現地法人などを多数持つような企業です。こうした企業では、個々の事業部門や子会社にとっての個別最適と、組織全体にとっての全体最適が鋭く対立するようなことがあります。この時に、有無をいわせずに全体最適を追求するために強い力が必要です。情報システム基盤を組織全体で何かに一本化しようという時、強いCIOの存在が求められるでしょう。

 2つ目は、地方自治体や中央省庁などの行政機関です。「縦割り」の弊害を打破しなければ、役所内部の業務効率化や、インターネットを使った行政サービスの利便性向上などは進みません。CIOという役職で、強いリーダーシップを発揮できる人物を活用することは意味がありそうです。

 3つ目は、企業の成長過程やライフサイクルの中で、情報化を強力に進められるかどうかがその後の事業競争力を左右する局面に差し掛かっている企業です。そういう局面で、情報化推進の権化のような人物がいれば、無駄な時間を使わずに大きな効果を出すことが可能になるでしょう。