皆さんの会社では,大事な情報を保管しているサーバーをどこに設置していますか。足元に何となく置いてあったり,事務所の片隅に「で~ん!」と置いてあったり,もしかしたら掃除の際の踏み台とまではいかなくても,花瓶の置き台にされていたりしませんか。そして,レイアウト変更のたびに邪魔者扱いされていませんか。

 大切な情報の保管場所でありながら,サーバーが邪魔者扱いされる理由の一つに,設置スペースを多く取ってしまうことが挙げられます。背面を壁に密着させるとファンからの排熱が遮られるので,実際の寸法より広い設置スペースが必要になります。また,排熱も問題視されます。執務エリアに置いてあるサーバーの台数が多いと,排熱で室温が上がるので,特に夏場にはエアコンへの負荷が高まります。また,サーバーのファンは強力な分,音がうるさいことも,嫌われる理由の一つでしょう。

 結局,サーバーと同居していて喜ぶ人といえば,サーバーをいじるのが大好きなサーバー管理者ぐらいでしょう。

正確な住所は公開されていない

 重要なサーバーを事務所の片隅などに置いておくのは,管理面やセキュリティ面で好ましくありません。花瓶の置き台になっていて,花瓶の水がこぼれてハードディスクが故障したケースは論外にしても,何かの拍子に電源コンセントが抜けてシステムがダウンすると,復旧に手間がかかることが多いですし,ディスク障害を起こしてシステムが起動しなくなる恐れもあります。

 会社の存続を左右するような重要なデータをサーバーに入れている場合,泥棒にサーバーを持ち去られては大変です。昼夜を問わずに事務所のセキュリティを厳重にしなければなりません。

 データセンターを利用することで,こうした悩みから解放されます。

 さて,データセンターって,どこにあると思いますか。一般にデータセンターの住所は公開されていません。世の中には,ほんの一握りですが,いたずら好きな方がいるようなので,データセンター事業者は安全策を講じているのです。このためデータセンター事業者に聞いても,契約の意思を確認した上でないと,正確な場所を教えてもらえないことがほとんどです。

大ざっぱなレベルで場所を開示

 現在,データセンターの数は全国に500~600カ所あるといわれています。ただし,先に述べたようにセキュリティ対策のため,具体的な場所は公開されていません。ただし,どこにあるのかを完全に伏せてしまうと,利用者が選定する際に困るケースもあるので,○○県△△市,あるいは全国主要▽都市といった,大ざっぱなレベルで場所を開示していることが大半です。

 実際,筆者たちが運用しているデータセンターの場合にも,全国主要7都市という表現にとどめており,住所を公開していません。さらにいうと,見学や商談などに利用するプレゼンテーション・エリアと,サーバーの設置エリアを別の建物に設けています。

内部は迷路のように複雑

 データセンターの多くは,建物の内部が迷路のように複雑になっています。筆者も,初めてデータセンターに入ったときは,危うく迷子になるところでした。

 データセンター事業者は,さまざまな危機的状況を想定してセキュリティを強化し,何重もの策を講じて安全性を確保しています。その一例が,指紋や静脈などの生体認証やICカードによる認証によって,入場許可を持たない人の出入りを防ぐ入退場管理です。

 データセンターは,災害に強い建物に設置するのが一般的です。建物の外観からでは,そこがデータセンターであると分からないことがほとんどです。皆さんが普段歩いている通り沿いに,最新のデータセンターがあるかもしれません(図3)。

図3●建物の外観からは,データセンターかどうか判別できない
図3●建物の外観からは,データセンターかどうか判別できない

 特殊な例では第3話「データセンターの誕生と移り変わり」のコラム「こぼれ話:核シェルターでシステムを守る」で紹介したように,「核シェルターを再利用したデータセンター」や,「コンテナ型データセンター」などもあります。まさかコンテナの中がデータセンターになっているなんて,普通は考えもつきませんよね。

こぼれ話:データセンターに適した場所

 今やネットワークは世界中につながっています。極端な話,作ろうと思えばどこにだってデータセンターを作れます。とはいえ,不適切なところに作っても仕方がありません。どこがデータセンターに最適な地域なのでしょうか?

 メンテナンス時のアクセス・ルートや食料の調達など現実的な選定項目を除外すれば,地震リスクが少なくて地盤の強い場所だといえます。ただし,そうした場所に強固な建造物を作ってデータセンターを設けたとしても,万が一に備えて地理的に離れたところに別のデータセンターを用意して冗長化するのが好ましいことに変わりはありません。

 いつの日か,高速電波通信技術が開発され,太陽系インターネット網による宇宙ステーション型データセンター,月や火星のシェルター型データセンターなどが実現するのでしょうか。ただし,そうした時代になっても,最も重要なデータは「皆さんの胸のうち」にしまわれたままかもしれませんね。

小林 敬明
リコーテクノシステムズ ITマネージド本部 EMS運用センター EMS運用部 ネットワーク運用グループ リーダー
EMS運用部は,リコーが提供しているデータセンター・サービス「ITKeeper EMS(エンタープライズ・マネージド・サービス)」の運用部門。ネットワーク運用グループは,データセンターのネットワークにとどまらず,リコー・グループ全社のネットワーク網およびリコー事業所内LANの運用管理も担うネットワークのプロ集団。小林氏は運用管理設計の経験が豊富なネットワーク系エンジニア。ネットワーク運用グループのリーダーとして,ネットワークのライフサイクルを管理している。