今回は,WILLCOM CORE XGPのネットワークの全体像を紹介する。ネットワークを構成する機器,ユーザーが使用する端末がWILLCOM CORE XGPからインターネットに接続までの手順,マイクロセルやアダプティブ・アレイ・アンテナ(スマート・アンテナ)などの基地局のしくみ――を順に解説する。

アンテナは現行PHSと共有

 まずはネットワークを構成する機器をユーザーに近い端末から上り方向への信号の流れを追う形で見ていく(図4-1)。現在のWILLCOM CORE XGPのエリア限定サービスでは,PCMCIA型のデータ通信カードを提供している。ユーザーはこの通信カードを自分のパソコンなどに挿入することでXGPを使うことができる。

図4-1●WILLCOM CORE XGPのネットワーク構成の例<br>エリア限定サービスを提供しているシステムの一例を示した。
図4-1●WILLCOM CORE XGPのネットワーク構成の例
エリア限定サービスを提供しているシステムの一例を示した。
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 データ通信カードからの信号(データ)を乗せた電波は,基地局に接続されたアンテナに届く。XGPのアンテナはPHSとの共用アンテナである。図4-1中の写真に示すように,現在のPHS基地局のアンテナは8本のエレメント(素子)で構成されているものもある。複数本のエレメントで構成することによって,アダプティブ・アレイ・アンテナを実現している。このうち現在は4本をXGPと兼用している。エリア限定サービス地域の屋外にあるアンテナのうち,8本中4本のエレメントの下端からケーブルが2本延びているのが,PHS/XGP共有アンテナである。

 アンテナの先にあるのはXGP基地局装置である。外形寸法は現行のPHS基地局装置とほぼ同じ。基地局装置からは光ファイバ・ケーブルが延びてスプリッタにつながっている。スプリッタはPHSとXGPを光信号レベルで分離する装置である。スプリッタからはNTT局舎内にある光回線終端装置(OLT),そして中継網を経由してウィルコムの通信センターに信号が流れる。

 通信センターには,アクセス・ゲートウエイ(AGW)やホーム・エージェント(HA),認証サーバー(AAA),ルーターなどがある。アクセス・ゲートウエイは,端末のセッション管理や状態管理,移動(モビリティ)制御などを行う。ホーム・エージェントは,IPアドレスを割り当てたり,ルーターへパケットを転送したりする。認証サーバーは端末認証を行うRADIUSサーバーである。ルーターから先はプロバイダ網を経由するなどしてインターネットにつながる。

通信チャネルごとにQoSを設定可能

 次に端末がIP通信を始めるまで,ネットワーク側とどのようなやりとりをしているかを説明しよう(図4-2)。

図4-2●端末がデータ通信できるようになるまでのステップ<br>プロバイダ(ISP)などのユーザー認証が完了すると,IPアドレスが割り当てられ,インターネットに接続できるようになる。
図4-2●端末がデータ通信できるようになるまでのステップ
プロバイダ(ISP)などのユーザー認証が完了すると,IPアドレスが割り当てられ,インターネットに接続できるようになる。
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 最初に端末は無線ネゴシエーションを基地局と始める。ここでは,基地局の選択,基地局とのタイミング調整や送信電力など,通信を開始するために必要最低限の調整を行う。次に個別制御チャネルを確立し,このチャネルを介して互いに有している変調方式や誤り訂正符号方式のバリエーションなどを通知し合い,こののちに使う方式を決定する。ここまでで無線リンクが確立することになる。

 次に上位の機能ネゴシエーションのステップに入る。ここでアクセス・ゲートウエイとやりとりし,お互いが持つ機能を通知し合う。認証方式や暗号化方式なども決定する。このステップが終了すると,認証サーバーとの間で端末認証を行う。ここではXGPカード情報という携帯電話のSIMカード情報に相当するものを使って,端末を認証する。認証が完了したら,端末と基地局との間でデータの暗号化に用いる鍵を交換する。

 それから端末はアクセス・ゲートウエイとの間で通信チャネルを確立する。この通信チャネルにはQCS(QoS control session)と呼ばれる論理セッションが設定される。一つの端末で複数のQCSを設定することもできる。

 XGPではこのQCSごとにサービス品質(QoS)を設定/制御することが可能だ。XGPの規格では,遅延,帯域,パケット損失の三つのパラメータの組み合わせでサービス・クラスが定義されている。ただし現在のWILLCOM CORE XGPでは,主な用途がインターネット接続であるため,ベストエフォート接続のみとして,QoS制御機能は動かしていない。

 通信チャネルが確立したら,ユーザー認証を行う。ユーザーが契約しているプロバイダのアカウントを認証する。ユーザー認証が済むと,ホーム・エージェントがIPアドレスを割り当てる。こうして端末はIP通信を始めることができる。