長野県に本社を構えるJMFが提供する「使えるねっと」は、クラウドコンピューティング関連のVPS(仮想専用サーバー)サービスである。JMFの社長兼CEO(最高経営責任者)は、オーストラリア生まれのジェイソン・フリッシュ氏。なぜ、日本で起業しクラウド関連サービスを提供するのか。フリッシュ氏に聞いた。(聞き手は島田昇=日経コンピュータ)

「使えるねっと」とは、どのようなサービスか。

 共有サーバーとVPS(仮想専用サーバー)を提供している。VPSはパラレルスが持つ仮想化技術を使い、1台のサーバー上で動作する複数の仮想サーバーを、利用者が管理者権限を持って管理・運用できる環境として提供するサービスだ。「使えるねっと」に近いサービスとしては、米アマゾンの「EC2」があるが、当社のサービス料金は月額2480円からと、EC2より安い。国内の競合サービスと比べれば平均して7~10倍程度安くなる。

 2009年6月までは利用者専用サーバーも提供していたが、これは廃止した。2009年7月からは、VPSに軸足を置いて事業展開する体制にしている。専用サーバーの提供を止めたのは、仮想化技術の進歩と当社にノウハウが蓄積してきたことなどから、ほとんどの企業においては専用サーバーを所有する必要がなくなったと判断したからだ。米国のヤフーやアマゾン、日本では楽天など大規模なWebサービスを展開する一握りの企業を除けば、専用サーバーを使う必要はない。

 むしろ、VPSのほうが、専用サーバーより安価なだけでなく、高性能かつ可用性が高い。例えば、VPSならサービスを申し込んだ日から利用できるし、計算能力やデータ保存領域の大幅な拡張もシステムを止めることなく実現できる。専用サーバーにこだわる利用者の中には、低価格な専用サーバーを好んで購入する傾向があるが、当社の使えるねっとでは、最新かつ最高性能のサーバー上で仮想サーバーを運用しており、安価な専用サーバーより可用性は高くなる。

新規利用者数は月間200件超

 実際、需要は急速に高まっている。使えるねっとの新規利用者数は月間200件を超え、毎月過去最高数を更新している。業績も倍々成長が続いている。この勢いはさらに加速するとみており、今後4~5年で当社サービスを含めたVPSやクラウド型サービスを、国内企業の8割が利用することになるだろう。それと前後する時期に株式公開することも視野に入れている。

 専用サーバーのサービスを廃止したことについては、業界内の一部では、当社が経営上の問題を抱えていると受け取った向きもあるようだ。だが、それは全く異なる。これからは専用サーバーの廃止が必然的な時代の潮流であることを訴えるメッセージを込めて、早々に廃止したまでだ。

成長とともに、クラウドの提供基盤となるデータセンター運営の負荷は大きくなる。国内外大手も同分野に巨大資本を投じている。資本力に劣るベンチャー企業が太刀打ちできるのか。

 仮想化技術を生かしたサービスの世界的な潮流は、データセンター増設など設備競争にあるようだ。しかし、私はこの流れに疑問を抱いている。仮想化技術の進化により、データセンターの規模自体は縮小傾向にあるとみるからだ。むしろ今後の競争領域は、システムのアーキテクチャとマーケティングにあると考えている。

 その意味で当社が最も重要視しているのは、効率化と自動化、それにサポートだ。使えるねっとの最大の強みは、効率化と自動化を徹底的に追求した仕組みであることだ。創業した1999年から培ってきたノウハウにより、国内には当社のレベルに匹敵するサービスはないと考える。使えるねっとが他社を圧倒する安さを実現できているのも、効率化と自動化の徹底によるコスト削減などが寄与している。