エバンジェリスト(evangelist)は,技術を伝える『伝道師』である。企業が社会に送り出す技術をいち早く理解し,その魅力や効果的な使用法を世の中に訴求する。
マイクロソフトで「デベロッパー エバンジェリスト」を務める小高 太郎氏は自らの職務を「何かシステムやプログラムを開発したいと思っている人に,マイクロソフトの技術を訴求,伝える職務です」と定義する。
小高氏の前職は開発者である。1996年から,ある企業でシステムを開発していた。だが,キャリアを積むにつれて,次第に現場の開発よりもマネジメント業務が増え,現場から遠ざかっていく。小高氏は,技術者として最先端の現場に携わっていたかった。
そのころ同時に,マイクロソフトのトレーニングコースであるMSU(Microsoft University)の公式講師として,社内外の開発者に技術を伝える仕事と,その喜びを知っていた。そこで,これらの両方が満たされるエバンジェリストという職種に魅力を感じ,2007年に転職した。
エバンジェリストのやりがいは何だろうか。「最新の技術に触れられます。その技術を理解して,必要があればサンプルコードを書くなど,自分の思いを乗せて,何百人の前で発表できます」(小高氏)。エバンジェリストは会社を代表して,技術者に新技術を伝える。伝えれば当然反応がある。好意的なときもあれば,そうでないときもある。それでも小高氏は「ポジティブな反応は当然うれしいし,ネガティブな反応であっても自身の成長の糧(かて)になります」と,反応があること自体を喜びと話す。
最新の技術に触れ伝え,届ける喜びがある
それは前職の開発者とはまったく違ったやりがいである。「前の会社では,会社の中のポジションとしてシステムを作る人,売る人,納める人に分かれていました。作る人の立場ではなかなか,お客様から生のフィードバックを得ることはできませんでした」(小高氏)。
逆に,今のエバンジェリストという仕事では,会社を代表する責任の重さと同時に,成功も失敗も確実に感じられる。そこにモチベーションを感じられる人には魅力的な仕事といえそうだ。
もちろん伝えるべき最新技術は,常に深いレベルで追いかける必要がある。
「技術を表面的に理解するのはそんなにやっかいな仕事ではありません。ただ,この技術はなぜそういう仕組みになっているのか,設計者はこの技術をどう使って欲しいのかというレベルまで理解する必要があります」(小高氏)。エバンジェリストが技術を伝える相手は,現場で様々な技術を利用している技術者である。彼らを納得させられるレベルで,新技術を素早く,深く理解してこそ,伝える喜びを実感できる。
一方で,技術者としてのジレンマも感じ続けている。自分が気になっている技術に触れると「これは実システムでこう使いたいと,頭に浮かんでは消える状態になります」(同氏)。エバンジェリストでは,現実のシステムにその技術を生かすことが難しい。そのミッションは“技術を伝えること”で,技術を利用して何かを作ることではないからだ。小高氏は,伝えたい気持ちと,作りたい気持ちとの間で思案する日々を過ごしている。
新技術をいち早く世間に広める
エバンジェリストは,IT業界で次々と登場する様々な新技術を,その利用者に広く伝える仕事である。一般にソフトウエアのメーカーやベンダーに所属しながら,勤務する会社の技術を伝え,将来のビジネスに結びつけていく。
伝える場は,Webサイト,技術者向けイベントでの講演,雑誌や書籍の執筆など。新技術をいち早く理解し活用する技術者としてのスキルと表現力の両方が要求される。
必要なスキル
- 技術に対する興味
新技術を理解するスピード,深さがすべての原動力。技術を理解し利用するまでの興味が必要。 - 表現力
自分が理解していることを端的な短い言葉で伝えるスキルが重要となる。 - 英語
最低限でも読解能力は必要。もちろん話せたほうがよい。