国内の動画配信サービスが新たな局面に入った。広告収入を頼りにエンターテインメント(娯楽)用の動画を配信する“テレビ型”モデルから抜け出し,ショッピングをはじめとする他のサービスとの連携,ターゲットを絞ったユーザーへの動画広告,教育など他分野での動画配信など多角的に収益を狙う動きが見えている。動画そのものを収益の手段とするのではなく,動画をツールとして他のサービスの利用促進に活用する,いわば“呼び水型”モデルへのシフトだ。新たなモデルに向け,サービス提供事業者,配信方法,そして動画コンテンツの内容が変わり始めた。

テレビ型モデルの見直しが相次ぐ

 象徴的な動きが,無料のネットテレビを目指したUSEN「GyaO」がヤフー傘下に入り,ライバルのYahoo!動画と統合すると発表したことだ。GyaOはコストの3割を占めるという回線費の負担に苦しみ,単独での存続を断念した。広告収入だけではそのコストを支えきれなかった。

 統合後の新生GyaOの社長に就任したヤフーの川邊健太郎氏は「広告モデルにとらわれず,企業の販促費を狙ったり,有料コンテンツ・サービスを組み合わせるなど,あらゆる手段で収益化を図る」と呼び水型モデルへの転換を狙う。従来のGyaOは,ネット上でテレビ型のモデルを再現しようとする最右翼と言えた。

 携帯電話事業者によるモバイル分野の動画配信への本格参入も見逃せない。NTTドコモは2009年5月1日,エイベックスと共同で動画配信サービス「BeeTV」を開始。モバイルでの視聴料課金モデルという新たなジャンルに乗り出した。ソフトバンクモバイルも5月下旬から,3月から提供している「S-1バトル」を発展させ,モバイル向けの動画配信サービス「選べるかんたん動画」を本格的にスタートした。

 これらのサービスでは携帯電話という個人にひも付くメディアの特徴を生かし,ユーザーの嗜好に沿った動画配信を狙う。ここでも,マスメディアを志向した従来のテレビ型モデルからの脱却が見える。

 NTTドコモ コンシューマサービス部の原田由佳コンテンツ担当部長は,動画コンテンツ単体のビジネスだけではなく「多彩な分野と組み合わせた市場の広がりに本当のビジネスチャンスがある」という。動画をプロモーションのツールとして活用し,様々なサービスを利用促進させビジネスを拡大する(図1)。

図1●テレビ型モデルから呼び水型モデルへの転換を狙う<br>動画配信そのものを目的とするのではなく,他のサービスと組み合わせて収益拡大を狙う方向性が見えてきた。
図1●テレビ型モデルから呼び水型モデルへの転換を狙う
動画配信そのものを目的とするのではなく,他のサービスと組み合わせて収益拡大を狙う方向性が見えてきた。
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多彩な収益モデルを狙う第2フェーズ

 GyaOやNTTドコモがこうした考えを示す背景には,様々な分野で動画が一般的になってきた事実がある。NTTドコモの原田担当部長は,「企業PRやレシピなどの分野に動画が浸透している。いまや動画は表現上欠かせない存在になった」と話す。そこで,動画の視聴料をエンドユーザーに課金するというビジネスにとどまらず,その表現力を生かしたプロモーション・ツールとして活用する方向が見えてくる。

 NTTドコモの原田担当課長は,「アーティストの情報やグッズなどをポータルに集め,動画をアーティストの世界観を表現するツールに使う。例えばグッズの購入促進につなげることで収益を上げられる。動画を使ったビジネスの本当のチャンスはこのような部分にある」と説明。動画コンテンツそのものへの課金にとどまらない方向性を見せる。

 KDDIも同様に,動画をユーザーを呼び込む一つの手段として使い,自身はプラットフォーム提供者として収益拡大を狙う考えを示す。同社の高橋誠取締役執行役員常務コンシューマ商品統括本部長は,「音楽と映像,スポーツ,書籍を4分野がエンターテインメントの核。それぞれの分野でユーザーに接するブランドを持つ企業を巻き込んで,ユーザーに楽しんでもらえるようなサービスを作りたい」という戦略を描く。

 Yahoo!動画と統合した新生GyaOも,動画をツールとして活用するビジネスを狙う。川邊社長は「Yahoo!全体として動画とそれ以外のコンテンツを融合させていくことが収益化の一つの鍵」という。

 動画の浸透によって,ビジネスチャンスは他の分野にも広がる。例えば企業の販売促進費を狙える市場や,教育,医療といった分野である。実はこれらの分野の大半は,いまだ手付かずの状態にある。日本では広告費が約6兆円のところ,販促費は約13兆円とも言われる。エンドユーザーへの課金や広告費ばかりではなく,企業の販促費を狙えば,それだけ市場の枠は広がる。