情報システムにコストがかかり過ぎる根本は、情報システムの構築にある。システム運用のコストはこの構築費におおむね比例的だ。費用をセーブして安く構築するにはどうすればいいのか? 情報システムの構築をコスト削減の観点からみると、さまざまな工夫が考えられる。もっと「早い、安い、うまい」を求めるべきだ。

 情報システムの構築はウォーターフォール・モデルと呼ばれる古くから続けられてきた開発手法がいまだに主流だ。工程が直列であり、並列には処理されない。まさに滝のごとしだ。上流工程で問題があることが後から発見されれば、その影響は後工程すべてに影響するモデル。この工程が人為的にプロジェクト型(実態的には労働集約型)で進められるために開発費用は人件費の累積になっていく。

 IT(情報技術)ベンダーは人月ビジネスから脱皮したいというが、このモデルをやっているうちは大きな付加価値は付けられない。多重階層労働集約型構造には馴染みやすい便利な開発手法であるから、なかなか脱皮できないという背景もあるのだろう。従って、人件費の安さが勝負になってしまう。

 規模の大きいITベンダーは人件費のレベルも高く管理コストがかかる。その見返りは担保力であるが、それを必要としない発注管理ができるユーザー企業であれば、規模は小さいが品質を確保できるベンダーに委託したほうがいい。筆者が情報システム部門の責任者だった時には、情報システムの開発は大手システムインテグレーター(通称SIer)にはほとんど委託せず、主に規模の小さな会社にお願いしていた。

中国やインドに開発委託するオフショア開発は、期待はずれの面も

 これをもう一歩進めると、人件費の安価な中国やインドに開発委託するというオフショア開発を考えるようになる。ITベンダーが受託業務をオフショア開発しているのは日常的であるが、ユーザーが行う例はまだそれほど多くはない。言語や習慣の違いを吸収するブリッジSE(システム・エンジニア)と呼ばれる調整役の管理技術者が介在するやり方が一般的だ。この手法で会計システムの一部の開発案件を試みた。結果的にはコストセービングにつながるが、かかる手間の割には期待するほどのコストパフォーマンスではなかった。

 それではということで、次に考えたのがダイレクトオフショア開発だ。言語と習慣の壁を越えられそうな会社が上海にあった。もともとは日本のユーザー企業の子会社であったが、拡大と独立を進め中国政府の資本が入り1000人規模のシステム開発会社になっている。この会社の特徴は日本企業(ITベンダー)向けの事業を行っており、SEはもちろんのことプログラマーが日本語の仕様書を理解し日本語で会話できるという日本語能力にある。現地でのミーティングでもコミュニケーションには問題がなかった。

 さらに日本での長期駐在経験社員も多く、日本の商習慣もよく知っている。問題の壁はない。相手も日本のユーザー企業との直接取引を希望しており、発注側の対応がしっかりできれば大きなリスクはない。早速発注案件のRFP(提案依頼書)作成者に参加してもらい、当然受注してもらえるであろうと期待していた。しかし結果的に彼らは失注した。

 工数にリスクを見込み過ぎて提示したためだ。もう1つ発注側に対する信頼の壁があったようだ。その後交流を深めながら次の機会を探っている。ダイレクトオフショア開発によってコストセービングの開発は可能であるが、「早い、安い、うまい」にはまだほど遠い。なぜなら労務集約型の開発では限界があるからだ。