携帯電話を使って、発達障害などを抱える子供たちの日常生活をサポートしようというプロジェクトが始まっている。東京大学先端科学技術研究センターとソフトバンクモバイルが2009年6月に開始した「あきちゃんの魔法のポケットプロジェクト」である。子供たちに携帯電話を渡し、勉強やコミュニケーションといった場面での有効性を実証する。

 「あきちゃんの魔法のポケットプロジェクト」は、読み書きの障害や自閉症、知的障害、肢体障害といった障害を持つ子供たちを対象に、携帯電話上で動く種々のアプリケーションを使って日常生活をサポートしていこう、という取り組みだ。北海道、和歌山県、香川県、愛媛県、山口県にある障害者施設学校で利用してもらう。

 東大先端技術研究センターで、自立を支援するテクノロジを研究する中邑賢龍教授のグループが、携帯電話用アプリケーションを用意。ソフトバンクモバイルは、iPhoneやWindows Mobile搭載のスマートフォンなど、携帯電話34台を提供する。

 プロジェクト名にある「あきちゃん」は実在の人物。会話など音声コミュニケーションを苦手とし、中邑教授の研究室に在籍していたときは、日によっては一言も口をきかず、用件はすべて携帯電話のメールでやり取りすることもあったという。あきちゃんのような子供たちにとって、「携帯電話は、日常生活をより快適に過ごせるための、まさに“魔法のポケット”になる」と、中邑教授は強調する。

あいまいな表現をグラフや数値で具体化する

●写真1●タイマー機能の画面例
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写真2●騒音計の画面例
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写真3●サポーターとして期待される辞書機能の画面例
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 プロジェクトで利用する携帯電話用アプリケーションの一つが、タイマー機能。残り時間を視覚的に把握できるように、設定時間を緑色の円グラフで表示する。時間経過とともに円グラフの赤色部分が増えていき、最終的に円グラフ全体が赤くなったら終了という、いわば砂時計のようなソフトである(写真1)。

 発達障害の子供たちの中には、「あと少しで課題を完成させましょう」といった、漠然といた指示の意味がつかめず混乱するケースがある。そこに、視覚的に残り時間がどれほどあるかを示せれば、混乱を防げることになる。

 別のアプリケーションに騒音計がある。発生した声の大きさを針の振れと数値で表示する。「もう少し静かにしましょう」という指示ではやはり、どれだけ声を落とせばいいのか分からない。騒音計アプリケーションによって「60デシベルを超えない声の大きさで話しましょう」と指示することで、数値などをみながら声を落とせると期待する(写真2)。

 このほか、携帯電話がもつ辞書機能やメール機能なども、子供たちのサポート機能として有効だと考えられている。読めない漢字や意味の分からない言葉を調べやすくなれば、学習への取り組み度合いが変わってくる(写真3)。日常会話のスピードについていけなくても、メールでならコミュニケーションが取れるときもあるためだ。

 中邑教授は、こうしたアプリケーションについて、「運動が苦手な人に『運動しなさい』といっても、具体的に何をしていいのか分からず行動できないが、万歩計を渡して『1日5000歩、歩いてみましょう』といえば、歩けるようになるとの同じ。発育障害を持つ子供たちに必要なのは、一般には“当たり前”と思われている指示内容などを、より具体的に示せる仕組みだ」とは説明する。