本研究所では、クラウドコンピューティングについて、モバイルソリューションの観点から企業の情報システムを考えます。第1回は、コスト削減の観点からIT部門およびITコストが格好のターゲットになり得ることに言及しました。今回からは、クラウドとモバイルの関係についてより深く探っていくことにします。今回はクラウドの価値と意味について掘り下げます。

 本連載の開始後に、いくつかの講演機会がありました。「ワークスタイルの変化に伴い共有すべき情報」や「モバイルクラウド時代のベンダーの勝機」などがテーマです。そこでお話しした内容への反響やいただいたご意見から、あらためてクラウドへの興味の高さ、およびクラウドに伴うワークスタイルの変化に関する興味と畏怖心?が大きなことを痛感しました。

経営者にとってのクラウドの価値とは?

 そうしたなか、経営者あるいは経営幹部の方々との討議では、様々な意見を頂戴します。「クラウド、クラウドって、“雲をつかむような”話をしないでくれよ」(冗談のようですが、ホントの話です)とか、「昔からあったでしょう?そんな話」とか、「分かりやすく言えばクラウドって何だ、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)と何が違うのか」とか、「クラウドをモバイル化するのか、モバイルをクラウド化するのか、君の話はどっち?」などなどです。

 筆者はそのたびに、「そうなんですよ、昔からありましたよね。ただネットワークが早くなり、IT技術が進化し、結果としてITを使っただけ払えばいいようになったんですよ」と、技術に踏み込みたくない方には、それなりの説明をしています。SaaSとの対比を持ち出される方には、「ソフトウエアだけでなく、ハードウエアやミドルウエアなどのプラットフォームも、自分で持たずにネットワークの向こう側に用意してあり、『一晩だけ使って返し、その分だけお金を払う』といったことができるようになったんです」などと説明しています。

 もちろん、技術的な背景からは、仮想化や動的なリソース配分、シングルインスタンス・マルチテナントといった点が重要です。しかし、技術に詳しくない、あるいは介入したくない経営者にとって、あるいはエンドユーザー視点から見たときには、上記程度の説明がちょうど都合が良いことが、経験上判ってきました。

コンセプトは古くから変わらない

 以前から、ネットワークの向こう側で処理するコンセプトは存在していました。その傾向は常に続いてきましたが、ここにきてネットワークの帯域と通信スピードがようやく、「コンピューティングリソースがどこにあってもそれほど意識しなくても良いようになった」。クラウドは、ただそれだけのことだとも言えるわけです。

 そうすると、経営者から見たときには、誤解を恐れずに言えば、アウトソーシングの一手段が、さらに進化しただけのことなのです。データセンターでサービス提供のためのITを運用している企業にとっても、「何をいまさら」という感もあるでしょう。

 さらに、減損会計導入の昨今においては、持たざる経営・オフバランス経営の観点から、「IT資産など持たずに外部で実現できるならそれでいっこうに構わない、当たり前の方向性だ」との見解も多いはずです(図1)。つまり、クラウドのコンセプトそのものは、技術進展とコスト優位性以外、昔から変わっていないのです。

図1●経営者からみたクラウドコンピューティング
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