私はこのコラムを5月中旬に米国で開催されたTechEd 2009の2~3日後に書いている。厳しい経済情勢と新型インフルエンザのおかげで参加者が5000~7000人程度だったこともあり,今回のショウについては誰に聞いても地味だったの評価が返ってくる。

 確かに客の出足はいまひとつだったし,Microsoftの主要な役員も参加していなかった(CEOのSteve Ballmerは同じ週に開催されたTechEd Indiaで基調講演を行っていた)。けれども,今回のTechEdではMicrosoftが重要な製品のリリースに向けて着々と準備を進めていることが発表された。まるで嵐の前の静けさのように,Microsoftが2009年後半から2010年にかけての主要製品のリリースを控えて,TechEd 2009ではその作業に本格的に取り組む前の深呼吸をしているように筆者には見えた。Microsoftが今後リリースする製品のポートフォリオを,Windows IT Proの記事へのリンクとともに紹介しよう。

●Windows 7(2009年12月リリース予定):Windows 7はWindows Vistaを大幅にシェイプアップしたもので,機能も向上するだろうというのがほぼ衆目の一致するところとなっている。Windows 7はMicrosoftが認めているよりもVistaとの共通点が多いのではないかと言う議論はあるが,確かにこのOSにはユーザー・インタフェースおよびパフォーマンスの面で重要な改善点がある。多くのIT管理者がVistaの採用を見送る決定を下しているが,筆者はWindows 7は確実に採用されるのではないかと思っている(Windows 7に関するFAQはSuperSiter for Windowsのページを参照)。

●Exchange 2010(2009年後半リリース予定):現在のMicrosoft Exchange 2007は強力な製品ではあるが,管理が複雑である。MicrosoftはExchange 2010でその複雑さを解消しようとしている。同時にセキュリティおよび電子証拠開示手法に対処する新しい機能を盛り込もうとしているようだ。Outlook Web Accessの2010年バージョンも,従来のOutlookクライアントとほぼ同等の機能を実現し,目を惹くものとなりそうだ。(参考記事:A First Look at Exchange 2010)。

●Windows Server 2008 R2(2009年後半リリース予定):私が話をしたMicrosoftの役員の中には,VMwareのvMotionテクノロジをできるだけ使わなくても済むように努力している人が何人かいた。だが,VMwareを使用しているITのプロフェッショナルによれば,vMotionテクノロジーはなくてはならない機能のようだ(VMware vMotionを使用すれば,仮想マシンを停止せずにコピーおよび移動することができる)。Windows Server 2008 R2では,Live Migrationと呼ばれるvMotionテクノロジと同等の機能を搭載しており,これによりMicrosoftは現在も成長を続けている仮想化市場においてVMwareの牙城を若干は切り崩すことができるかも知れない(参考記事:Inside Windows Server 2008 R2)。

●Office 2010(2010年前半リリース予定):Officeファミリ製品はここ数年,Microsoftのドル箱であった。だが,ローエンド市場においてはGoogle Docs,Zoho Office,そしてThinkFree OfficeなどのSaaS型オフィス製品とのこれまでになく激しい競争にさらされている。市場をリードするMicrosoftのアプリケーション・スイートは,これらの競合製品を蹴散らし,同時に大企業の管理者をハッピーにすることができるのだろうか(参考記事:Office 2010 Details Emerge)。

●SharePoint Server 2010(2010年前半リリース予定):私は以前に,急激に発展しているSharePoint市場についての記事を書いた。SharePoint Server 2010によって,MicrosoftはSharePoint市場では好調を維持できそうである。初期のシステム要件では,SharePoint Server 2010は64ビット版のみが提供され,64ビット版のSQL Server 2008またはSQL Server 2005,および64ビット版のServer 2008またはServer 2008 R2を必要としていた(参考記事:SharePoint 2010: Features, System Requirements Emerge)。

●SQL Server 2008 R2(2010年前半リリース予定):SQL Server 2008の最新バージョンは,最大256の論理プロセッサのサポートを含むアップグレードおよび機能改善,SharePoint,Excel,およびSQL Serverを介してビジネス・インテリジェンス(BI)レポート機能を統合する新しい「Self-Service BI」機能,および複数のデータ・ソース間のデータ管理を効率化して改善する新機能の「Master Data Services」などを提供している。SQL Serverは従来IBMおよびOracleの守備範囲だった企業向け市場で順調にシェアを伸ばしており,SQL Server 2008 R2でもこの傾向は続くだろう(参考記事:TechEd 2009; More SQL Server 2008 R2 News )。

●Windows Mobile 7(2010年前半リリース予定):MicrosoftはAppleのiPhoneおよびRIMの最新のBlackberryデバイスに不意打ちを食らった格好になった。現在でもこの分野ではAppleの後塵を拝しており,高い人気を誇るiTunes App Storeに対抗する手段を打ち出せないでいる。最近発表されたWindows Mobile 6.5では,Microsoftのモバイル向けユーザー・インタフェースにおいて必要と思われた改善がなされているものの,Microsoftはこのカテゴリにおいては絶対に克服しなければならない問題を抱えている。Microsoftは現時点ではWindows Mobile 7を実際の製品名として認めていないが,とにかくWindows Mobile 6.5の後継者には巻き返しのために必要な事が山のようにある(参考記事:Microsoft: Windows Mobile Update in Late 2009, Zune Phone Rumors Debunked)。

 Microsoftのこれからの製品発売スケジュールは確かに素晴らしいが,いくつか疑問点もある。この不景気下でITの予算縮小が求められている中,これらの製品アップグレードをすべて導入可能とする財源を持つIT部門はどのくらいあるのだろうか。読者の皆さんはどう思われるだろうか。これらのアップグレードのいくつかは他のものより魅力的だろうか。Windows 7はXPを旧式だと思わせるほどの新機能を持っているだろうか。