「4年間で3000万円のコスト削減が実現できそうだ」(トーホービジネスサービス 営業部長兼情報システム部長の奥村一人氏)。業務用食品卸などを主力とするトーホーグループは,グループのパソコン1500台の80~85%をMicrosoft Officeから,オープンソースのオフィス・ソフトであるOpenOffice.orgへ移行する。

 2009年の2月から導入を開始しており,2009年8月には全社標準とする。例外を除き,パソコンの新規購入時に新しくMicrosoft Officeを購入しない。Microsoft Officeの購入には申請が必要になる。移行にともなうMicrosoft Officeのライセンス削減により,4年間で3000万円のコスト削減を見込む。

 会社にとってコスト削減になるとはいえ,現場のユーザーにとってオフィス・ソフトの変更には抵抗がある。トーホーグループのユーザーも例外ではなかった。しかし,実際に使うユーザーがその気にならなければ,オフィス・ソフトの移行は成功しない。トーホービジネスサービスはそのハードルをどう乗り越えたのか。その「現場説得術」を聞いて感銘を受けた。

きっかけはVistaのMS Office 2000非対応

 トーホーは神戸市に本拠を置く,業務用食品卸などを主力とする東証一部上場の食品会社。トーホービジネスサービスは食品の品質検査や人事・経理サービスなどを一般企業対象に提供しており,トーホーグループの人事,経理,情報システムを担当している。

 トーホーグループがOpenOffice.orgの導入を検討したきっかけは,Windows Vistaの登場だった。「グループの標準はMicrosoft Office 2000だったが,Windows Vistaに対応していない。Vistaに移行すると,多額の買い換えコストが発生する」(奥村氏)。そこでOpenOffice.orgの導入を検討。見栄えは少し貧弱だが,Microsoft Officeとの互換性は高く,「使える」という結論に達した。

 Microsoft Office標準版のライセンス料は1ユーザー当たり4万6400円((初回に3ライセンス以上一括購入する「Open License」の場合。関連記事)。「簡単な文書の作成に高価なオフィス・ソフトはもったいない。Microsoft Officeの買い換えにかかるコストを新ビジネスや業務改善のための投資に振り向けたい」---。奥村氏は,OpenOffice.orgの導入を決意する。

コスト削減に加えセキュリティの向上を訴える

 奥村氏はまず,グループの意思決定会議へ提案する。「トップダウンでないとうまくいかない。ボトムアップでは定着しない」と考えた。

 意思決定会議への提案にあたっては,OpenOffice.orgへの移行が,コスト面だけでなく,セキュリティ上のメリットもあることを訴えた。

 OpenOffice.orgで作成した文書をMicrosoft Officeで閲覧するとレイアウトが崩れる場合もあるが,社外へ出す文書については,原則PDF形式とする運用を採用する。OpenOffice.orgはPDF作成機能を標準で備える。PDF化することで,改ざんされたり,ウイルスを送付してしまう危険を軽減できる。

 また業務効率が低下するのではないか,という懸念に対しては,OpenOffice.orgへの移行は無理をせず,現場の生産性を落とさない範囲とすることで理解を得た。

 「トーホーグループのトップは情報システム部出身であり論理的。ロジカルな提案が功を奏した」(奥村氏)。