現場では,プロジェクトの「見える化」をさまざまなやり方で取り組んでいることだろう。その個々の取り組みが有用であることは確かだ。しかし,「見える化」の最終的な目的をもう一度見つめ直し,そこに個々の「見える化」指標を階層的につなぎ合わせることで,「見える化」の効果はさらに高まる。

松永幸大
マネジメントソリューションズ マネージャー,中小企業診断士


 プロジェクトを「見える化」すること,見えないものの「予兆」をつかむことの重要性は,多くの方が認識されていることと思います。本連載でもたびたび取り上げてきましたが,ここで改めて「見える化」する目的に立ち返ってみましょう。

 当たり前のことですが,すべてはプロジェクトのゴールを達成し,プロジェクトを成功させるためです。

 プロジェクトを成功させるためには,プロジェクトの状況を把握し,必要な対策を打っていく必要があります。そのプロジェクトの状況を把握するために,特定の事象や定性的な情報を基に指標化・モニタリングするわけです。これが「見える化」の目的です。

 ただし,「進捗率」「クライアントの満足度」など多様な指標を見える化していても,多くの方はそれらをバラバラに見ていることが多いようです。個々の指標の推移を注意深く追うことも重要ですが,個々の指標・情報をつなぎ合わせることで,「見える化」の効果をさらに高めることもできます。

 その具体例として,指標・情報の「ツリー化」があります。下の図を見てください。「期日までに成果物を完成させる」というプロジェクトのゴールに対して,見える化した多数の指標の因果関係をツリー状に表現したものです。

図●因果関係に基づいて指標をツリー化した例
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 ツリー化の効果は大きく2つあります。(1)個々の指標・情報の影響先・影響元がわかるようになることで,プロアクティブな対応が可能となることと,(2)プロジェクトとして管理すべき情報が整理され,プロジェクト管理工数の適正化を図れることです。

必要な情報を日頃から収集しているか?

 (1)については,経験豊富なプロジェクトマネジャやPMOであれば,特にツリー化せずとも,何かが悪化した際の影響先・影響元は瞬間的に把握できてしまうものです。しかしながら,悪化する前の兆候を把握する目的で,こういった情報の影響先・影響元の関係を意識していないように思われます。

 簡単な例で考えてみましょう。あなたがマネジメントしているプロジェクトで,あるタスクの進捗が悪化してきているとします。あなたの経験を基に,原因を考えてみてください。思いついた原因は何個くらいあったでしょうか。さらに,それらの原因は定期的にモニタリングしている情報だったでしょうか。

 原因を分析し,対応策を打ち出すという動きは,プロジェクトでは当たり前の光景でしょう。だが残念なことに,こういった分析は,プロジェクトの状況が悪化して初めて行われることが多いようです。

 状況が悪化する前に,その兆候をつかむ。兆候をつかんだら,プロアクティブに手を打つ。そのために,個々の指標・情報の関連をツリー化し,因果関係を明確にしておく。そして日頃から個々の指標・情報をモニタリングし,すぐに感知できる準備を整えておくことが重要と考えます。