写真1●Chrome OSは7月7日,グーグルの公式ブログ上で発表された
画面1●Chrome OSは7月7日,グーグルの公式ブログ上で発表された
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 米グーグルが7月7日に発表したネットブック向けOS「Google Chrome OS」(以下Chrome OS)。年内に公開が始まり,その後,オープンソース・ソフトとして開発される(画面1)。2010年後半には,標準で搭載するネットブックが登場する予定となっている。また,台湾エイサーや台湾アスーステック・コンピュータ,中国レノボ,米ヒューレット・パッカードといった大手ネットブック・メーカーが,開発に協力する企業として挙がっている。

 仕様などに関する情報は少ない。OSのアーキテクチャは,同社のWebブラウザ「Google Chrome」の利用に特化したLinuxベースのOSであること,数秒で起動しWebアクセスが可能になるほど軽量であること,ユーザーはWebブラウザ上でほとんどの作業を行うことくらいしか分かっていない。しかし,核となるWebブラウザのGoogle Chromeのアーキテクチャや,グーグルが提供するWebサービスの変遷を見ると,何となく全体像が見えてきそうだ。そこで,ネットブック市場の現状や記者が考えるChrome OSの姿を紹介しながら,Chrome OSがネットブックのメーカーやユーザーに与える影響を考えてみよう。

不幸なユーザーが増え続けている

 まず,Chrome OSがターゲットとするネットブック市場を見てみよう。調査会社BCNによると,2009年6月の国内パソコン市場におけるネットブックのシェアは,3割を超えている。国内パソコン市場全体の販売実績では,台数ベースで前年同期比21.6%増と好調で,ネットブックはその市場をけん引しているのだ。

 この市場の広がりについて,ネットブック・メーカーの多くは「当初ITリテラシーの高い層のセカンド・マシンとして購入されてきたが,徐々に低い層にも購入され始めてきた」と説明する。きょう体のデザインにこだわってファッション性を高めたり,モバイル通信サービスとセットで100円で販売されたりしたことが,影響したのだろう。しかし,ネットブックの特徴をよく理解していない層が現在のネットブックを購入しているのなら,その多くは不幸になっている危険性が高い。

 パソコン歴が20年超と数字だけはベテランである私の父は,ネットブックを「低価格になったノート・パソコン」として購入した。そこにMicrosoft OfficeやCADソフトなどを導入して,仕事に使う予定だった。しかし,購入してわずか数日で不満をもらす。「まともに使えるのは,メールとネットくらいではないか」と。

 不満は遅さにあった。普段デュアル・コアの高速なCPUを搭載したデスクトップを使い慣れている父にとって,ネットブックの反応は遅すぎたのだ。このように感じているユーザーは,ITリテラシーの高低にかかわらず,かなりいるだろう。

アプリケーションはクラウドに

 では,Chrome OSが登場すれば不幸なユーザーは減るのか。私は不幸なユーザーが減り,幸福なユーザーが増えると予測している。

 ネットブックが遅いのは,Windowsを使っているからだ。低価格で販売するために高価なパーツを使えないネットブックの処理性能では,Windowsの負荷が高過ぎるのだ。

 Chrome OSはGoogle Chromeの利用に特化しているため,Google Chromeを安定的でかつ高速に稼働させらればよい。既に,米DeviceVMの「Splashtop」や米Good OSの「Cloud」など,利用するアプリケーションを絞ることで数秒で起動するようにしたOSは存在する(参考記事1参考記事2)。Chrome OSは,利用するアプリケーションをGoogle Chromeに絞った分,さらに高速になる可能性も高い。これまでにネットブックで使われてきたLinuxよりは確実に高速だろう。例えば,アスーステックのネットブックで採用されたLinux「Xandros」は,実際Windowsと使い比べてみると,その違いは少し体感できる程度だった。顕著な差があれば,ユーザーにとってのメリットは大きい。

 ただし,Chrome OSで使えるアプリケーションがWebブラウザだけになると,ユーザーの利用範囲が狭まる心配がある。その心配は,コンピュータで行う処理のほとんどをインターネット側にあるコンピュータで済ませられる「クラウド・サービス」の充実が解消する。

 グーグルは,Webメールの「Gmail」やスケジュール管理の「Google カレンダー」,オフィス文書作成の「Google ドキュメント」といったクラウド・サービスを無償で提供している。これを既に利用しているユーザーも多いだろう。これらを使い続けるなら,WindowsからChrome OSに移行しても使い勝手は変わらない。

 また,マイクロソフトは2010年にオフィス・スイートの次期版「Microsoft Office 2010」をクラウド・サービスとして無償で提供する予定だ。これで,既存のMicrosoft Officeで作成した文書との互換性や使い勝手もキープされるだろう。さらに,グーグルはOutlookやLotus Notesといった企業が利用するグループウエア環境を,GmailやGoogle カレンダーなどを組み合わせたクラウド・サービスとして利用できる「Google Apps」に移行させようとしている。これを利用しているユーザーも,違和感なくChrome OSを使える。

 もちろん,ユーザーが望むすべてのアプリケーションがクラウド・サービスとして提供されているわけではない。一部は,ガマンしなければならない。しかし,WindowsやLinuxを搭載したこれまでのネットブックでも,ユーザーがガマンしたり,不満を抱えていたりした部分が大きかったはずだ。Chrome OSの方が,ガマンの度合いは少ないだろう。