「もし,Chrome OSがWebブラウザしか動かないパソコンだとして,自分はメイン・マシンとして使うだろうか」――。米グーグルの発表を聞いて,まず最初に考えたのがこのことだ。しばらく考えた後,「たぶん使わない」という結論に達した。理由は使い勝手や拡張性を考えるとWindowsに劣り,仕事に支障がありそうだからだ。

 まず,使い勝手。HTML 5に対応したWebブラウザなら,画像編集のようなアプリケーションもJavaScriptで実現できるが,ローカルのハードウエアの機能を限界まで使えるネイティブ・アプリケーションの方が機能も豊富で,使い勝手も良いと推測する。PowerPointのようなプレゼンテーション作成ツールや動画編集ソフトでも同様だ。

 拡張性も低そうだ。最終的にどのような実装になるかは明らかではないが,デバイス・ドライバを追加して,新しい機器を接続するといった機能はWindowsよりも制限されるだろう。例えば,新しい通信サービスのカードのドライバを追加して,その通信サービスを使い始めるのは難しいのではないだろうか。

パッチ当てもウイルス対策ソフトも不要!?

 このように考えた一方で,企業システムを管理する立場に立てば,Chrome OSはとても魅力的であることに思い至った。簡単な業務ならWebブラウザさえあれば済むし,Chrome OSは管理が簡単だ。

 業務を考えてみる。簡単なデータ入力と,データの閲覧しかしないのであれば,Webブラウザで十分だろう。簡単な文章や表,プレゼンテーションの作成もWebアプリケーションで可能。先に述べたように,それほどの高機能を求めないなら,画像処理ですらWebブラウザで実現できる。

 一方,管理面ではChrome OSはメンテナンス・フリーだと思われる。グーグルのブログによればChrome OSはパッチ当て不要らしい。ネイティブ・アプリケーションをユーザーが直接インストールできないと想定されるため,WindowsのようにOSのシステムが改ざんされ,ウイルスに感染するとシステム全体に信頼性がなくなるという問題も回避できそうだ。そのため,ウィルス対策ソフトの導入も不要になる可能性が高い。いわゆるシン・クライアントのシステムでは,管理はサーバー側で集中できるものの,WindowsなどのOSを使うため,パッチ当てやウイルス対策は必要である。Chrome OSはシン・クライアント以上に管理性が高くなりそうだ。

 さらに,企業にとって良いのがChrome OSがOSからユーザー・インタフェースまで含んだトータル・パッケージとして提供される上,オープンソースで改変可能だという点だ。企業は,これに少し手を加えて,自社仕様のものを作ることができる。例えば,ネットワークのモジュールを改変し,許可されたIPアドレスの範囲にしかアクセスできないようにする,HTTPでPOSTした内容を必ず企業のログ・サーバーに送る,といった機能を追加できる。もちろん,Linuxとほかのパッケージを組み合わせれば同様のことができるかもしれないが,全体のパッケージ化には時間がかかる。

 この考え方は,通信事業者やシステム・インテグレータのサービスにそのまま転用できる。独自仕様のChrome OS端末とSaaS/ASPサービスを企業にセットで提供するというビジネスだ。Chrome OSへの“味付け”次第でSaaS/ASPサービスを差異化できる可能性がある。

 もちろん,グーグルの狙いは,Chrome OSの提供によって,グーグル・サービスへのユーザーの依存度を高めることにあるのだろう。とはいえ,せっかくタダでセキュアかつ管理性が高く,改変可能なOSを提供してくれるのだから,これを活用しない手はない。