ロック・フィールドの3つの総菜工場がトヨタ流企業改革で生まれ変わった。創業社長が招へいしたトヨタ自動車出身の役員の下で、現場改革を断行。鮮度を向上させるため、トヨタ生産方式を生ものの生産現場に取り入れた。商品をジャスト・イン・タイム(JIT)で生産し、店舗に配送する体制を確立した。 (文中敬称略)<日経情報ストラテジー 2007年9月号掲載>

プロジェクトの概要
 高級総菜店「RF1(アール・エフ・ワン)」やコロッケ販売の「神戸コロッケ」、野菜ジュースの「ベジテリア」などを全国に300店以上展開するロック・フィールドは2001年12月に、トヨタ自動車から業務改善のプロを招き入れた。自社で野菜や肉、魚といった素材の調達から総菜の生産、店舗への商品配送と販売までを一貫して手がける同社は神戸市と静岡県磐田市、川崎市の3カ所に工場を構えるが、いずれの拠点にもここ数年でトヨタ流企業改革が浸透した。「かんばん」を導入したり、工場から自動倉庫を撤去したりするなど生産や配送の現場は劇的に変化。狙いは、生ものの総菜工場であっても顧客の需要に合わせてジャスト・イン・タイムで商品を生産・配送することで商品の鮮度を保ちつつ、工場や物流、店舗の生産性を上げ、同時に生ものに付きものである廃棄ロスを削減することだった。
神戸工場ではトヨタ自動車出身の役員によって、トヨタ流の現場改革が進められている(上)。右写真は高級総菜を販売する直営店舗 (写真:竹内 由美子(左)、的野 弘路(右))
神戸工場ではトヨタ自動車出身の役員によって、トヨタ流の現場改革が進められている(上)。右写真は高級総菜を販売する直営店舗 (写真:竹内 由美子(左)、的野 弘路(右))
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 テナントがひしめく百貨店の「デパ地下」の中でも、ロック・フィールドが展開する高級総菜店「RF1(アール・エフ・ワン)」はひときわ目立つ。ショーケースには、彩り鮮やかな約70品目のサラダやフライが所狭しと並べられている。とはいえ、デパ地下で高級総菜を買い求める顧客は舌が肥えており、見た目の美しさだけでは繰り返し買ってくれない。総菜のおいしさを決定づけるのは野菜やシーフードの鮮度であることを顧客は知り尽くしている。そのため、総菜の新鮮さを追求することは同社の進化の歴史そのものなのだ。

 生ものである総菜の鮮度は、素材の産地から店舗に商品が並ぶまでのサプライチェーン・マネジメント(SCM)の精度で決まると言っていい。そこでロック・フィールドは自社工場で素材を調達し、そこで総菜を生産して直営店舗に運んで販売するというビジネスモデルにこだわり続けてきた。しかも扱う総菜は保管が容易な冷凍商品ではなく、より鮮度が高いチルド(冷蔵)商品である。だから同社の商品は原則として、完成品や仕掛かり品の段階で工場に在庫を長時間留め置くことができない。そこが総菜ビジネスの難しさなのだ。

社長の岩田弘三は、ものづくりのベンチマーク相手として異業種のトヨタ自動車を意識し、そのトヨタから矢嶋を迎え入れた (写真:木村 輝)

 創業社長の岩田弘三はこれまで、独自の「製販一貫モデル」に磨きをかけることで商品の鮮度を向上させてきた。そのシステムは創業からの30年で一定のレベルに達し、同社の成長を支えてきた。だが、岩田は満足していなかった。顧客が欲しいと思うタイミングに合わせて、鮮度が一番いい状態の商品を店頭に並べるという究極の目標には、まだまだ達していないという反省があったからだ。過去には、売りたい時に店頭に商品がそろわず、慌てて作って出荷すると今度は売れ残って廃棄になるという苦い経験もしてきている。

 そこで岩田は1990年代後半から社外に目を向けて、自己流のSCMを抜本的に見直す決断を下す。キーワードは「ジャスト・イン・タイム(JIT)」だ。その手本として目をつけたのがトヨタ自動車だった。岩田は異業種のトヨタ自動車をあえてベンチマークすることで、「総菜工場やその店舗にトヨタ生産方式を導入しようと考えた」。