社長や役員が企業の中で大きな権限や影響力を持っていることは誰でもご存じだと思いますが、その経営陣ですら恐れる巨大な権力者がいるのをご存じでしょうか? それは“従業員の総意”です。

 経営者といえども、従業員総スカンという状況を好む方はまずいないのではないでしょうか? プロジェクトを進めようとする場合も、この“従業員の総意”という社内民主主義と真っ向から戦わなければならない時があります。

 日本の企業は特に戦後、TQC(全社的品質管理)活動によって企業競争力や品質の向上・原価の低減という非常に重要なテーマに取り組んできました。日本人の勤勉さと企業への帰属意識の高さ、さらに平均的教育レベルの高さによって、日本は世界で最もTQCに成功した国になったといっても過言ではないでしょう。

 その半面、問題解決手法がボトムアップ手法になってしまい、この文化が逆に問題解決を遅らせたり、経営陣に間違った判断を下させたりすることがあるのです。例えば、経営陣が全社統一のルールを決めたとしましょう。その後に労働組合や従業員がそれに大反対すればどうなるでしょう? 従業員の総意を得られないために断念するということが考えられるのではないでしょうか? 全社にかかわる投資や全社プロジェクトは正にその目的の通り、全体最適を目指したものでなければなりません。

経営者が大衆迎合主義に陥り、妥協だらけの骨抜き幸策に

 しかし、全体最適というのは強いリーダーシップと高い見識を持った方々がトップダウン方式で行わない限り、膨大な時間とコストを浪費してしまう結果となってしまいます。経営者が全体最適を考える時に従業員の総意を条件とすることを否定はしませんが、いつの間にか経営者が大衆迎合主義に偏り、本来断行すべき重要な対策を妥協だらけの骨抜き対策にしてしまうことが往々にしてあります。これは現在の日本政府にもいえることで、日本人の特質なのかもしれません。

 面白い例をご紹介します。ある企業で正社員約700人に対して430台の携帯電話が貸与されていました。尋常ではないですね。折しもその企業は連続赤字という業績であったために経費削減対策としてすべての経費を見直すということになりました。簡単に役員会で承認され、総務部長名で「経費削減対策として携帯電話の台数を削減しますので、各部門にて業務上必ずしも必要ではない携帯電話を返却してください」との指示を取締役管理本部長名で出しました。