将来の事業の柱に育てたいクラウドコンピューティング分野の案件だ。受注金額も億単位と魅力的である。ただし顧客は、初期投資を最小限に抑えたいという。

 既存のパッケージをSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)プラットフォームで動かせるようにするための開発・移行作業や、アプリケーション保守、SaaSプラットフォームとネットワークの運用管理─。

 「受注できれば、複数年で億単位の契約になるかもしれない。今後のクラウドビジネスにも弾みがつく。なんとしてでも勝ち取ってみせる」。新日鉄ソリューションズ(NSSOL)のITインフラソリューション事業本部営業本部営業第一部主任(当時)の山本拓は、こう決意した。2008年7月のことだ。

 山本が挑んだのは、住宅用ガス機器などの製造・販売を手掛ける高木産業の案件。ただし、社内業務システムの開発や運用・保守ではない。

 高木産業が外販していた業務パッケージを、SaaS形態で提供できるようにする仕組みの整備、という案件である。高木産業が提供しているのは、取引先のLPガス事業者向けに、販売や購買、保守といった業務を支援するパッケージソフトだ。

パッケージをSaaSで提供したい

 高木産業が、LPガス事業者向けパッケージのSaaS形態で提供しようと計画したのは、2007年9月のことである。既に同社のパッケージは4000社が導入しているものの、ここ数年の販売が伸び悩んでいたためだ。

 近年、LPガス事業者の経営状況は厳しく、初期投資のかさむパッケージの導入を敬遠するところが増えていた。「安価にパッケージの機能を利用したい」と考えるLPガス事業者が増えてきたため、SaaS形態で提供することにしたのである。

 SaaS化のプロジェクトを指揮したのは、高木産業の執行役員でIT企画統括担当兼情報システム部長を務める川口忠彦である。川口は2007年9月から2008年5月までじっくりと時間をかけて、SaaSに関する調査を進めた()。

表●高木産業が、LPガス事業者向けのSaaS「Profit Navigatorシリーズ クラウドAZタワー」のシステム構築と運用をNSSOLに発注するまでの経緯
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表●高木産業が、LPガス事業者向けのSaaS「Profit Navigatorシリーズ クラウドAZタワー」のシステム構築と運用をNSSOLに発注するまでの経緯

 この結果、「コストや手間を考えると、自社で新たなシステムを構築・運用するより、ITベンダーのSaaSプラットフォームを活用するのが得策だ」という結論に至ったのである。

 川口は、付き合いのあるなしに関係なくITベンダー11社から情報を収集し、委託先候補を4社に絞った。2008年7月下旬、付き合いのあった大手メーカーのA社に加え、付き合いのなかったNSSOL、大手メーカーのB社、大手SIerのC社にRFP(提案依頼書)を提出した。

 まず山本は、RFPに記載されていた、高木産業のSaaS事業計画に着目した。サービス開始から7年目に目標とする契約社数が、グラフで表示してある。

 ここから、社内の技術者の協力を仰ぎ、サーバーのサイジング作業に取り掛かった。必要なサーバーの台数やサーバーの仕様などを具体化し、提案書に盛り込んだ。