顧客のクラウドに対する関心は高く、商談は順調に進んだが、なかなか受注できない。グーグル製品に対する機能面の不安を解消するため、博士号を持つ技術者と力を合わせた。

 「企業でクラウドコンピューティングが使えることを証明する絶好の機会。長丁場になりそうだが、何としても、この商談をものにするぞ」。サイオステクノロジーの国内事業ユニット システムソリューション営業部長の松原徹は決意した。ユーザー企業との2回目の面談を終えた2007年10月のことだ。

 松原が臨んだのは、音響・映像機器の製造や販売を手掛けるディーアンドエムホールディングス(D&M)の電子メールシステムを再構築する案件である。D&Mは、デノンと日本マランツの持株会社として2002年に設立された。

 既にD&Mは、デノンと日本マランツの社内システムを統合していたが、電子メールは手付かず。日米欧の3拠点は異なるソフトで、電子メールシステムを動かしていた。D&Mは2007年春、運用・保守コストを削減したり、セキュリティ水準を高めたりするために、ばらばらだった電子メールシステムを統合することを決めた()。

表●ディーアンドエムホールディングス(D&M)がサイオステクノロジーに電子メールシステムを発注するまでの経緯
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表●ディーアンドエムホールディングス(D&M)がサイオステクノロジーに電子メールシステムを発注するまでの経緯

Google Appsに目を付ける

 D&MのITグループの責任者を務める山城隆宏は、3拠点で使っている電子メールソフトの中から1種類を選び、それに統一することを検討した。ところが、思ったほどシステム運用コストが下がらないことが分かった。

 そこで異なる実現手段を模索。山城の部下であるコーポレートセンターITグループ システム・アナリストの大類優子は、「Google Apps Premier Edition」に目を付けた。Google Appsは、電子メールやスケジュール管理、オフィス・ソフトなどをSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)形態で提供するものだ。

 大類はグーグル日本法人に問い合わせたが、事態は進展しなかった。「当社で、Google Appsを使えるかどうかを判断するのに必要な情報を得ることができなかった」と大類は振り返る。

 それでも大類はGoogle Appsの導入をあきらめなかった。Google Appsを導入すれば、運用・保守費を従来の3分の1に抑えることができると試算していたからだ。

10万ユーザーという実績に興味

 D&Mは、既に利用しているメールソフトのいずれかを使い続けるか、Google Appsを導入するかなどについての検討を半年近く続けた。この間の2007年9月、大類はGoogle Appsの導入実績のあるSIerとして、サイオステクノロジー(サイオス)の存在をWebサイトで見つけたのだ。

 サイオスは日本大学にGoogle Appsを導入した実績があった。しかもユーザー数が10万と大規模であることも、大類の関心を引いた。「この会社に頼めば何とかなるのではないか」。

 大類は早速、サイオスに連絡を取る。担当は、サイオスでGoogleAppsの営業に携わっている松原である。日本大学の案件をまとめたのも松原だった。

 松原は2007年10月、D&Mを初訪問。既存システムの問題点や新システムの導入目的などを山城と大類たちから聞いた。

 「Google Appsの導入については、当社にしか声をかけていないようだ。だが手を抜いたら、既存システムをこのまま利用する方針に切り替わり、商談そのものがなくなってしまう」。松原は気を引き締めた。