日立製作所 環境本部 主管技師
IEC 環境配慮設計WG 国際主査
市川 芳明

 前回に引き続きテレビの事例をご紹介する。前回ではPreparatory Study(事前調査)がどのように行われたかの経緯を解説したが,今回はその実施措置案(IM;Implementing Measure)の最新ドラフトを用いて紹介したい。

 最初に,今年の実施措置の準備状況について今年の2月24日に欧州委員会より提示されたスケジュールを表1に示す。このスケジュール表には各々の実施措置によって削減されるエネルギー量の推定値が併せて示されていて興味深い。

表1●2009年に発行が予定されている実施措置
対象機器ごとに,実施措置によって削減されるエネルギー消費量の推定値が示されている。
対象発行日年間の削減量(2020年まで)
スタンバイ(エコデザイン)2008年12月35TWh
セットトップボックス(エコデザイン)2009年1月6TWh
街灯およびオフィス照明(エコデザイン)2009年2月38TWh
外部電源(エコデザイン)2009年2月9TWh
家庭用電源(エコデザイン)2009年5月39TWh
テレビ(エコデザインとラベリング)2009年7月43TWh
冷凍冷蔵庫(エコデザインとラベリング)2009年7月6TWh
洗濯機(エコデザインとラベリング)2009年7月2TWh
食器洗浄機(エコデザインとラベリング)2009年7月2TWh
電気モーター(エコデザイン)2009年7月140TWh
サーキュレーター(エコデザイン)2009年7月27TWh
合計 347TWh

 この表によると,既に発行された5件に加えて,テレビをはじめとするさらなる6件が7月(つまり欧州委員会の夏休み前)には正式発行される見通しだ。

 さて,ここでご紹介するテレビの実施措置案は,今年4月に公開されたバージョンであり(図1)現在TBT通報でWTO加盟各国にEU政府から回覧されているものだ。今後のスケジュールを勘案すると,ここから大きく変更があるとは考えにくい。以下にその内容の要点をご紹介する。前回の議論がどのような結果に決着したかを見ていただきたい。

図1●最新のテレビに関する実施措置のドラフト
図1●最新のテレビに関する実施措置のドラフト

使用段階の電力消費を主な規制対象に

1.対象と定義

 この実施措置の対象は,まず第1条に「テレビを対象とする」と書かれているのみである。その定義が第2条に与えられている。

第2条(定義)
第1項
「テレビ」とはテレビセットあるいはテレビモニターのことである
第2項
「テレビセット」とは音響映像信号の受信と表示を主目的とした製品であり,下記の要素より構成される一つのモデルとして,あるいはシステムとして上市されているものである。

(a) ディスプレイ
(b) 一つ以上のチューナー/受信機と,ディスプレイに一体化されたユニットとして,あるいは分離されたユニットしてのデータ蓄積/表示のオプション機能(DVD,HDD,VCRなど)

 これらの記述をみると,Preparatory Studyの結果がそのまま反映された結果になっている。

2.著しい環境側面とライフサイクル

 Preparatory Studyでは様々な環境側面とライフステージについて調査結果が示されていたが,実施措置が採択した結論は,序文の(6)に記載されている。「The environmental aspect of televisions that is identified as significant for the purposes of this Regulation is the electricity consumption in the use phase.(この規則の目的において著しいと特定された環境側面は使用段階の電力消費である)」と書かれ,いかにもDG TREN(輸送エネルギー総局)の見解らしい。彼らにとってエネルギー以外の環境側面と使用段階以外のライフステージに規制を実施することに興味がなく,行政権限の観点からも困難であるからだと思われる。

 しかし,コンサルテーションフォーラムなどで関係者から指摘があった有害性物質の側面については序文の(7)で触れられていて,その意味するところを要約すると,RoHS指令で既に規制されているので,EuPでは取り扱う必要がないという見解だ。ただし,ライフサイクル思考がまったく見られないというわけでもない。序文の(11)には,「In particular, the benefits of reducing electricity consumption during the use phase should more than offset potential additional environmental impacts during the production phase.(特に,使用段階の電力消費削減は(それが引き起こす)製造段階の環境影響の追加を相殺できる以上の便益があるべきだ)」と述べられている。

 ある特定の環境側面とライフサイクル段階の環境影響を削減することが,他の環境側面やライフサイクル段階への転嫁になってはならないという,ライフサイクル思考の基本的な考え方が述べられている。