「これだけ売り上げが落ちた経験は,今まで無かった」(KDDIの小野寺正社長兼会長)──。

 2008年度の決算は,NTT,KDDI,ソフトバンクの通信大手3社のいずれもが,売り上げを2.5~3.7%落とした。稼ぎ頭の移動体通信で,ユーザーの端末買い換えサイクルが長期化し,販売収入が大きく落ち込んだからだ。携帯端末の割賦販売方式が導入されたことがその要因だが,端末販売が以前のような水準に戻る見通しは無い。

 KDDIの小野寺社長は「コスト構造の見直しに早急に着手する必要がある」と危機感をあらわにする。KDDIに限らず,業界全体が “移動体通信頼み”だった従来の収益構造の見直しに迫られていることが鮮明になったのが,今回の決算の特徴だ。

過去最高益,国内企業で首位も喜べず

 携帯端末販売台数の減少は,一方で各社の利益を押し上げた。販売奨励金の負担が減ったため,営業費用も圧縮されたからだ。KDDIとソフトバンクは,営業利益が過去最高に達した。唯一減益だったNTTは,前年度の特殊な利益押し上げ要因を除くと3%程度の下げ幅にとどまった。

 1兆1000億円に達したNTTの連結営業利益は,国内企業全体でトップである。NTTが国内首位に返り咲いたのは6年ぶりのことだ。米国の金融危機を発端とした世界規模の景気後退に,多くの国内企業が赤字転落の憂き目を見た。それとは対照的に,通信3社は営業利益のトップグループに名を連ねた。

 しかし,決算説明会に臨んだ各社のトップの表情はいずれも険しい。誰もが,既存の通信事業が頭打ちになっている現実を認識しているからだろう。

 トップの顔色がさえない理由には,各社で異なる事情がある。NTTの場合,グループの中期経営戦略の求心力でもあった光ファイバ回線の加入件数達成に,ついに白旗を揚げたことだ。持ち株会社の三浦惺社長は「2010年度中に累計2000万件を達成するのは困難と言わざるを得ない。今後は数値目標を設けず,早期実現を目指す」とした(図1)。

図1●NTT持ち株会社の三浦惺社長の会見語録
図1●NTT持ち株会社の三浦惺社長の会見語録

 ただし,NTTは特別な対策を講じる様子を見せていない。今後の光回線の販売強化について三浦社長は「単純な料金引き下げは出来ない」と,料金面でのてこ入れの可能性を否定する。「光回線で利用できる便利なサービスを充実させることに取り組みたい」と従来路線を継続する姿勢を見せた。

KDDIは目標撤回,ソフトバンクは奇手封印

 KDDIは2010年度の売上目標を撤回した(図2)。同社の中期経営目標「チャレンジ2010」で掲げた,2010年度の連結売上高4兆6000億円について「達成は無理。取り下げざるを得ない」(小野寺社長)。同社の不安要素は,利益の大半を稼いできた移動通信部門。「2010年度以降,従来のような増収増益基調に戻すのは非常に厳しい」という。そこで飛び出したのが,コスト構造の見直し発言である。

図2●KDDIの小野寺正社長兼会長の会見語録
図2●KDDIの小野寺正社長兼会長の会見語録

 KDDIは「固定通信事業の2010年度までの単年度黒字化」を改めて至上命題とした。移動通信頼みの体質から脱却する必要があるとの認識からだ。移動通信については「1000万台の販売台数レベルを維持したい」とし,端末の魅力向上に努めることを挙げた。

 ソフトバンクの孫正義社長は,移動体通信の好調な純増を背景に,強気のメッセージを打ち出した(図3)。ユーザーが一定規模以上に達したことで,1兆円を超す借り入れ返済にメドがついたのだ。「大きな先行投資の時代から,収穫期を迎えた」との見解を示した。

図3●ソフトバンクの孫正義社長の会見語録
図3●ソフトバンクの孫正義社長の会見語録

 ただし,同社の持ち味である大胆な攻め手は,今後封印すると公言した。「1兆1000億円の有利子負債を完済する2014年度まで,大きな設備投資は必要ない」(孫社長)。既存路線を継続し,借金返済を優先するという。