通信事業者各社とも,移動体通信のARPU下落が加速している(表1)。NTTドコモの2008年度の総合ARPUは5710円。前年度から660円,10.2%下落した。2007年度の下落率5.1%との比較では2倍になった。KDDIも5.3%から7.4%に下落率が増した。下落幅が小さかった分,KDDIの総合ARPUはNTTドコモの総合ARPUを3年ぶりに上回った。

表1●携帯電話の事業者別ARPU推移
[画像のクリックで拡大表示]
表1●携帯電話の事業者別ARPU推移

移動体通信の音声ARPUが大幅に下落

 データARPUは両社とも上昇しており,総合ARPU下落の大きな理由は音声ARPUの落ち込みである。KDDIは2008年3月に,NTTドコモは2008年4月に家族間での定額通話サービスを開始しており,それが音声ARPUの下落幅を大きくした。ただし両社とも,2008年度初頭における予測よりはわずかではあるが音声ARPU,データARPUともに上回っており,想定内の結果ではある。2009年度は,NTTドコモ,KDDIどちらの予測も音声ARPUは10%以上減少,データARPUは1%台の小幅な上昇にとどまる。

 ソフトバンクモバイルのARPUは,3社の中で最大の下落幅だった。音声ARPUは26.4%下落して2320円に,データARPUは16.8%上昇して1740円になり,総合ARPUは12.5%減の4070円。同社のユーザーが急増する起爆剤となった「ホワイトプラン」を始めるまで,NTTドコモやKDDIとのARPUの差は約1000円だったから,600~700円程度差が広がったことになる。

 ARPUの落ち込みについてソフトバンクの孫社長は,端末の割賦販売請求分を加えた一人当たりの月額支払額で考えるべきだと主張している。それを加えるとソフトバンクモバイルの2009年1月~3月の平均支払額は5760円と他社にそん色なくなる。NTTドコモやKDDIも割賦販売を始めているが,両社とも一人当たりの支払額を公表していないため,横並びの比較はできない。

 音声定額を2006年度に始めたソフトバンクモバイルは,音声ARPUの下落率が最も大きくなった。この理由としては,同社ユーザー間で定額通話だけを使っているユーザーが増えている可能性がある。このほか,iモードなどIP接続サービスの契約率を見ると(図1),「Yahoo! ケータイ」の契約比率が下がり続けており,2009年3月末には79.8%と8割を切った。iPhoneなど「Yahoo! ケータイ」が使えない端末もあるがその比率は小さい。同社のユーザーの中で,音声契約だけのユーザーが増えている傾向を示すデータとして注目される。データARPUは伸びているが,490円から提供するデータ定額プランを追加したことで,今後は伸び悩む可能性もある。一連のARPUの低下は,同社にとって懸念材料になるかもしれない。

図1●携帯電話の事業者別IP接続サービスの契約比率<br>TCA(電気通信事業者協会)が公開している各社の契約数とIP接続サービスの契約数から計算した。
図1●携帯電話の事業者別IP接続サービスの契約比率
TCA(電気通信事業者協会)が公開している各社の契約数とIP接続サービスの契約数から計算した。
[画像のクリックで拡大表示]

解約率は低水準,端末販売は飽和状態に

 各社とも,携帯電話の解約率が下がっている(図2)。NTTドコモは,MNP導入直後には解約率が上がっていたが,2008年度は年間平均0.5%と,2007年度の0.8%から0.3ポイント下がり,過去最低を記録した。2007年8月に始めた「ファミ割MAX50」,2007年11月に始めた端末の割賦販売が解約率低下に寄与した。2009年度は0.4%台の解約率を目指すという。

図2●携帯電話の事業者別解約率推移
図2●携帯電話の事業者別解約率推移
[画像のクリックで拡大表示]

 3社の中で最も解約率が高いソフトバンクモバイルも2008年度は年間平均1.0%まで下がっており,事業者間でのユーザー移行は減っている。割賦販売や一部の割引サービスなど端末を一定期間買い換えられない契約のユーザーが増えているのも理由の一つだろう。

 携帯電話事業者にとって2008年度の最大の課題は,販売奨励金縮小による端末の販売台数低下だった。NTTドコモは前年比21.8%減の2013万台,KDDIは前年比31.7%減の1081万台。割賦販売を2006年末に始めたソフトバンクモバイルは最も影響が少なく,前年度比16.7%減の842万台だった(図3)。

図3●携帯電話端末の事業者別販売台数<br>各社が公表している値を示した。
図3●携帯電話端末の事業者別販売台数
各社が公表している値を示した。
[画像のクリックで拡大表示]

 ソフトバンクモバイルの2008年度の契約者純増は205万である。解約者が235万いるので新規契約が440万。これらのユーザーは,端末を購入しているはずだから,それ以外のユーザーへの販売台数は402万台。2008年3月末の契約数1859万のうち22%が端末を買い換えた計算になる。NTTドコモ,KDDIについて同様に買い換え率を計算するとそれぞれ29%,24%になる。2006年度,2007年度について同様の計算をするとNTTドコモはいずれも38%,KDDIは35%,36%だった。従って,販売奨励金の縮小で買い換え率が9~12%程度下がったことになる。一方,ソフトバンクモバイルは2006年度が32%で2007年度が28%。割賦販売開始後10%買い換え率が下がっている。

LTEへの投資始まるも総額は増えず

 各社の移動体の設備投資額を図4に示す。NTTドコモは2009年度にHSUPA(high speed uplink packet access),2010年度にLTE(long term evolution)を導入するが設備投資額は減少傾向にある。

図4●移動体の設備投資額推移<br>各社が公表している値を示した。ソフトバンクモバイルは,今後も2008年度と同程度の設備投資を行う見込み。
図4●移動体の設備投資額推移
各社が公表している値を示した。ソフトバンクモバイルは,今後も2008年度と同程度の設備投資を行う見込み。
[画像のクリックで拡大表示]

 KDDIは800MHz帯の周波数再編に対応するための投資が増えている。2008年度は全設備投資額4321億円のうち2001億円が新しい800MHz帯,1066億円が2GHz帯の整備のための投資になった。両周波数帯への投資合計3067億円は,全設備投資の71%に相当する。2009年度も,移動体の総設備投資3970億円の70%に相当する2790億円が周波数再編に充てられる。LTEの導入は,周波数再編が一段落した後の2012年ころを見込む。

 ソフトバンクモバイルはグループ全体として有利子負債の返済を優先する方針を明らかにしたため,それまでの設備投資は現状を超えない水準になる。LTEには「積極的に取り組む」(孫社長)というものの投資が始まるのは2010年あるいは2011年度になる見込みだ。