2008年度(2008年4月~2009年3月)の国内通信事業者の決算は,NTTが減収減益,KDDIとソフトバンクは減収増益だった。ただし,減収といってもそれぞれ前年比2.5%減,2.7%減,3.7%減。それほど大きな落ち込みではなく,KDDIとソフトバンクの2社の売り上げは2006年度を上回っている(表1)。NTTの営業利益は1949億円で,前年比14.9%減と大きく落ち込んだが,2007年度は厚生年金の代行返上による利益など特殊要因があったからで,それを除くと350億円,3.1%の減益にとどまる。

表1●NTT,KDDI,ソフトバンク各グループの連結決算推移
NTTの連結子会社であるNTT東日本/西日本,NTTコミュニケーションズ,NTTドコモの決算も示した。ソフトバンクは,2006年にボーダフォン日本法人を買収,売り上げが急増した。
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表1●NTT,KDDI,ソフトバンク各グループの連結決算推移<br>NTTの連結子会社であるNTT東日本/西日本,NTTコミュニケーションズ,NTTドコモの決算も示した。ソフトバンクは,2006年にボーダフォン日本法人を買収,売り上げが急増した。

 2008年秋の米国における金融危機を発端とする不況で,国内の多くの産業が大幅な減収・減益に見舞われた。NTTは減益にもかかわらず国内企業の業績でトップに押し出され,通信業界の底堅さを示した格好になった。2009年度の業績についてNTTは1.1%の減収で利益は横ばいと予測している。KDDIは売り上げを0.5%減,営業利益を6.0%増と見込んでいる。

 ソフトバンクは,これまでは次年度の予測を全く公表してこなかったが,今回初めて2009年度の営業利益を4200億円と予測した。2008年度の営業利益3591億円から17%の増益になる。売り上げ予測は明らかにしていないが,増収の見込みだという。2006年にボーダフォンを買収して以来,増益を続けていることで同社は今後の経営についてかなりの自信を持ったようだ。

 同社は今回の決算発表で,2011年度に純有利子負債を半減,2014年度にゼロにするという目標も明らかにした。ボーダフォンを1兆7500億円で買収したときに多額の借金をした同社だが,2008年度末の残高は1兆1800億円(有利子負債は合計2兆4000億円)となっている。これを5年間でゼロにする。孫正義社長は,純有利子負債を完済するまでは大規模な投資を実行しないことを表明した。

NTTではIP系の収入がトップに

 NTTは3社の中で唯一減益だった。減益の理由は,前述の特殊要因以外では金融事業や不動産事業によるものが大きく,次いでシステム・インテグレーション事業が不況の影響で利益減になったことが挙げられている。一方,通信事業は堅調である。2009年度の売り上げは1163億円下がる見込みだが,コスト削減の徹底などで2008年度と同水準の利益を確保する。

 NTTの売り上げを分野別に見ると,2008年度はIP系・パケット通信の売り上げがついに固定音声や移動体音声関連の売り上げを超えて最大になった(図1)。移動体音声関連では,販売奨励金の縮小で端末販売が大幅に減ったことが売上減につながっている。

図1●NTTの分野別売り上げ推移<br>グラフ中の数値の単位は億円。
図1●NTTの分野別売り上げ推移
グラフ中の数値の単位は億円。
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 NTTの売上構成を見たとき,従来はIP系の伸びがほかの分野の落ち込みを補うという構図だった。しかし,フレッツ光が伸び悩んでおり,2010年度末に2000万回線という目標をついに取り下げた。今後はIP系もこれまでのようには伸びない可能性が高い。

 事業会社別では,NTT東日本は2009年度,前年度比9.0%増の営業利益400億円を見込むが,NTT西日本は営業利益50億円と35.6%減。NTTコミュニケーションズは音声に加えてソリューション事業も2009年度は減収が見込まれているので営業利益は10.8%減少して900億円になる見込みだ。

 KDDIは増収を続けてきたが,今回ついに減収に陥った。売り上げの8割近くを占める移動体通信の売り上げが落ちたためである(図2)。端末の販売奨励金見直しによって,販売台数が急減したことが響いた。固定通信の売り上げは毎年伸びており赤字幅も小さくなっているが,携帯電話への依存度が相変わらず高い。2009年度も移動体通信の売り上げは減少し,全体の売り上げは横ばいになる。コスト見直しや移動体・固定通信における法人向けの強化,FTTHのユーザー拡大などで6.0%の増益を狙う。

図2●KDDIのセグメント別売り上げと営業利益の推移<br>グラフ中の数値の単位は億円。
図2●KDDIのセグメント別売り上げと営業利益の推移
グラフ中の数値の単位は億円。
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 ソフトバンクも移動体通信の売り上げが6割近くあるが,利益への貢献は半分程度(図3)。おとくラインや旧日本テレコムのサービスを中心とする固定通信が2007年度から黒字化し,2008年度は190億円の利益を上げた。ADSLを中心とするブロードバンド事業も顧客獲得競争が一段落した後は黒字を続けており,Yahoo! Japan中心のインターネット・カルチャー事業は高い利益率で収益に貢献した。

図3●ソフトバンクのセグメント別売り上げと営業利益の推移<br>グラフ中の数値の単位は億円。
図3●ソフトバンクのセグメント別売り上げと営業利益の推移
グラフ中の数値の単位は億円。
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