一度は縁が切れた顧客から、再び提案を求められた。今度は、顧客の要望に応える提案をしてみせる。入社2年目の営業はこう決意し商談に臨んだ。

 「以前お断りした件ですが、もう一度話を聞かせてもらえませんか」。シーティーシー・エスピー(CTCSP)の営業本部アライアンス営業部営業1課の田中太一は、電話でこう言われた。電話の相手は、三井ホームの経営企画統括本部システムグループの山我真之だ。2007年10月のことである。

 入社2年目の“駆け出し営業”だった田中が、顧客から提案を直接頼まれたのだ。本来なら喜ぶところだが、田中は「当て馬かもしれない」という不安を感じていた。

 田中は2007年6月に三井ホームを初めて訪問した時のことを思い出していた。少し前に、東京都内で行われた展示会で山我と名刺を交換し、電話でアポイントを取り付けたのがきっかけだ。三井ホームが新しい電子メールシステムの構築に向けて動いていることを山我から聞き、自社のソリューションを紹介した。見積料金も提示したが、予算の折り合いが付かず、商談を打ち切られた。

 それが10月に入って急に、システム構築の委託先候補になったのである。田中は「他のベンダーとの商談が進んでいるはず。今から逆転できるだろうか」と一瞬迷ったが、すぐに気持ちを切り替えた。「今度は悔いのないよう、やれるだけのことをやるしかない」。一度は断られた顧客への再提案を前に、田中は気合いを入れた。

本命ベンダーの提案はいまひとつ

 住宅メーカーの三井ホームが新システムの検討を始めたのは、2007年1月のことだ()。

表●三井ホームがCTCSPに発注するまでの経緯
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表●三井ホームがCTCSPに発注するまでの経緯

 特に対応を急ぐ必要があったのは、メールサーバーの障害対策である。本社と資材メーカーの間でCADデータを送受信するなど、電子メールのデータ量が急増して障害が頻繁に起こっていた。メールアーカイブについては、情報漏えいなどの原因調査に時間がかかることが課題だった。従来システムでは、調査に半日以上費やすこともあった。

 そこで山我が中心となり2007年7月から、新システムの構築を委託するITベンダーの選定に乗り出したのである。三井ホームがまず最有力候補に考えたのは、従来システムの構築を担当した中堅SIerのA社だ。A社が7月に提案した内容は三井ホームの要件を満たしており、見積金額も予算内に収まっていた。A社の技術力にも不満はなかった。

 ただし山我はA社の提案を「いまひとつだ」と感じていた。システム構成が複雑で、運用管理の手間が増えそうな気がしたのだ。A社には9月にも再提案を依頼したものの、提案内容は大きく変わらなかった。

 「A社に決めるのは少々不安が残る。他のSIerの提案を、もう一度検討してからでも遅くはない」。こう考えた山我は10月、CTCSPに声を掛けた。

 山我がCTCSPに提案を依頼したのは、田中の地道な営業活動があったからだ。2007年6月にいったん商談継続を断られた後も、月1~2回は山我を訪問。自社のソリューションに関する情報を提供したり、顧客向けセミナーに招待したりしていた。この活動が実を結んだ。

アプライアンス製品で固める

 三井ホームが田中に提案を求めたのは、メールサーバーとメールアーカイブを異なる拠点に設置しても、効率的に管理できるシステムである。三井ホームは8月に、メールサーバーを外部のデータセンターで運用する方針を決めていた。災害対策を強化するためだ。一方のメールアーカイブについては自社のデータセンターで運用する。

 「すべてのシステムを自社データセンターで運用している従来システムよりも、運用管理の作業が煩雑になりやすい。管理者の負担を抑えられるシステムかどうかが、顧客にとって重要なポイントになりそうだ」。こう考えた田中は、アプライアンス製品を利用してシステムを構築するべき、と提案することにした。

 田中は6月の山我への訪問の際に「従来システムはハードとソフトのバージョンを別々に管理する必要があるなど、運用の手間が大変だ。もっと効率化できないものか」といった話を聞いていた。こうした要望に応えるには、ハードとソフトを一元的に管理できるアプライアンス製品が最適だと判断したのである。