サッポロ飲料の石原睦取締役経営戦略部長。左手に持つのは2009年に100周年を迎えた炭酸飲料「リボンシトロン」だ

 サッポロ飲料(東京都渋谷区)は2008年1月に就任した鈴木英世代表取締役社長の下で大胆な戦略の見直しに取り組み、2008年12月期は4年振りの営業黒字を達成した。「無理に売り上げを追わず、身の丈に合ったビジネスをしよう」という新社長のメッセージは、組織的なIT(情報技術)活用にも影響を及ぼした。

 実は数年前から製品の売り上げや利益を販路や時間帯、地域など様々な切り口で細かく分析できる仕組みを同社は構築していたが、活用度は今一つだった。だが2008年から社員たちが積極的に用いるようになった。CIO(最高情報責任者)の役割を負っている石原睦取締役経営戦略部長は「従来、社員たちは『売り上げをしっかりと確保できなければ利益は出ない』と思っていた。だが、赤字の取り引きを思い切って廃止するなど意識や行動が変わった」と感心した。石原取締役は情報システム以外に経営戦略、経理、人事、広報、法務なども担当している。経理畑が長く、サッポロビールグループの経営管理システムを構築するプロジェクトに参加したこともある。

 会計や物流、給与計算といった基幹業務のシステムはサッポロビールグループで共通な一方で、自動販売機のシステムやBI(ビジネス・インテリジェンス)、インフラ、ワークフローなどは石原取締役が独自に手がけている。2008年12月に本社オフィスで全員が固定の席を持たないフリーアドレス制に移行した際には、各種の申請と承認手続きをオンラインで完結させられるようにワークフローシステムを導入した。部下から提出された紙の稟議書をチェックする管理職が、毎日違う席に座っていては職場は混乱してしまうからだ。さらに「導入に合わせて決裁権限を現場に委譲したので決裁がスピーディーになった」と効果を語る。

 2009年6月には数年がかりで取り組んでいた2つの大型コンピュータの撤廃と基幹システムのオープン化に成功した。現在、力を入れているのは、SCM(サプライチェーンマネジメント)システムの見直しだ。購買、物流、営業、マーケティングの部門で生産・販売のPDCA(計画・実行・検証・見直し)を回して、在庫や廃棄ロスを減らしていく。石原取締役は「慌てて作るつもりは無い。システムを使う人の意識や知識を一段引き上げてからで良い」と話す。まずは現状の課題を整理して、組織のあるべき姿をじっくり描いているところだ。新システムの完成は2010年1~2月ごろをメドにしている。

Profile of CIO

◆経営トップとのコミュニケーションで大事にしていること
・ITではなく、経営課題について徹底的に議論することが大切だと思います。システムはあくまでツールなので、課題をどう解決するかをまずオープンに話し合う必要があります。

◆ITベンダーに対して強く要望したいこと、IT業界への不満など
・システム開発の上流にいるコンサルタントと下流のSE(システムエンジニア)やプログラマーの橋渡しが重要です。プロジェクト全体のマネジメントはユーザー企業がやるべきでしょうが、ベンダーはこの橋渡しに注意を払ってほしい。さもないと当初の目的を達成できないシステムが出てきてしまいます。

◆普段読んでいる新聞・雑誌
・日本経済新聞
・日経情報ストラテジー

◆お薦めの本
・『ジョン・コッターの企業変革ノート』(ジョン・P・コッター 、ダン・S・コーエン 著、高遠裕子訳、日経BP社 )

◆ストレス解消法
・おいしいビールを仲間と楽しく飲む
・年に2回、おみこしをかつぐ