粉飾決算、脱税、横領などの事件があった企業のJ-SOX(日本版SOX法)対応はどうだったのか---。J-SOX(日本版SOX法)の初年度の結果が見えた。6月30日は3月期決算の企業の内部統制報告書の提出期限だったからだ。

 決算期変更があった企業を含め2672社が内部統制報告書を提出し、56社が「内部統制が有効でなかった」と開示した(関連記事)。J-SOX対応が終了せずに「内部統制が有効かどうかを表明できない」とした企業も10社ある。J-SOX担当記者として各社の内部統制報告書を読みながら、ふと「あの企業の内部統制報告書には何が書いてあるのだろう」と気になった。西松建設と三洋電機である。

 両社とも最近、財務関連の“不祥事”を起こしている。西松建設は海外からの違法な資金の持ち込みや違法献金問題などで、元社長や元社員が逮捕される事態となった。三洋電機は海外子会社に出向していた財務責任者が失踪し、数億円が使途不明になったという報道があったばかりだ。

 この2社の内部統制報告書には異なる結論が書かれてある。西松建設は「重要な欠陥があったため、内部統制は有効でなかった」とし、三洋電機は「内部統制は有効だった」としている。

 事件の内容や事件にかかわった金額、社会的な影響が両社の内容で異なるので、単純に比較できるものではないだろうが、この2社の結論の違いは非常に興味深いと記者は思った。

「ガバナンス不在」が理由

 西松建設は全社的統制の不備が「重要な欠陥」に当たるとして、内部統制が有効でないと判断した。具体的には以下のように記述している。

当事業年度において、外為法違反により罰金の略式命令を受け、元取締役らが外為法違反および政治資金規正法違反の容疑で起訴された。これらの事実は『経営者の姿勢』・『組織の行動規範』・『取締役の有効性』などの統制環境等、全社的な内部統制の不備に該当(以下略)

 全社的統制は、社長の考え方や社風といった企業の考え方全体を表す「統制環境」がきちんとするように整備・運用する統制である。ここでは、コーポレートガバナンスが確立しているかが問われる。

 統制環境は内部統制の基礎となり、ほかの内部統制の整備・運用に影響を及ぼす。西松建設はこの基礎の部分に問題があり、その問題が財務報告に与える影響が大きいと判断して「重要な欠陥」としたということだ。

 J-SOXでは、どういったケースが「重要な欠陥」に当たるかを明確には定義していない。つまり見つかった不備が重要な欠陥に該当するかどうかの判断は、企業側に委ねられている。

 J-SOXの参考書ともいえる「実施基準」では、金額的に連結税引前利益の5%程度の影響を与える虚偽記載の可能性がある場合や、質的に重要な虚偽記載の可能性がある場合が重要な欠陥に当たるとしている。このほか財務諸表の重要な誤りを財務諸表監査の過程で、監査人に指摘された場合も重要な欠陥になる。

 これらはあくまでも例示だ。連結税引前利益の5%ではなく、2%程度に影響がありそうな場合でも、企業が「重要な欠陥」だと思えば開示してもかまわない。

 西松建設の場合は金銭的や質的な問題、監査法人から指摘されたといった理由ではなく、「(全社的統制の不備が)内部統制の基盤となる部分に不備があることを意味しており、財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高いと認められることから、重要な欠陥に該当する」としている。経営者の不正をはじめとする統制環境の問題が内部統制に大きな影響を及ぼすことを、西松建設の内部統制報告書は示している。