●新潟県長岡市にある朝日酒造
写真1●新潟県長岡市にある朝日酒造
[画像のクリックで拡大表示]

 新潟県長岡市にあるJA越後さんとうの「こしじ地区営農センター」は,米の品質向上と収穫業務の効率化のため,衛星による遠隔観測(リモートセンシング)技術を2003年から本格導入した。5年後の2008年,同地区の酒造好適米「五百万石」の高品質米出荷量は倍増した。地元の大手酒造メーカーの朝日酒造が,こしじ地区の米の品質を高く評価し,着実に買い増していったためである。一方,リモートセンシングの導入は,米の収穫作業に伴う環境負荷を大きく低減した。

 農業では,収穫物の品質や作業負荷が自然条件に左右されやすい。このため高品質な作物を安定して収穫し,同時に作業を効率化する狙いから,ITを活用するケースが全国で増えている。

 こしじ地区では,「高品質米」の基準を明確にすると共に,品質目標を達成する手段としてリモートセンシングに着眼。“基準を超える”という共通の目標に向け,地域の農家が協調して取り組むための仕組みをJAが作り上げた。この結果,同地区の米の品質は上がり,お酒を造る朝日酒造が業績を伸ばす――という好循環を生んだ。米作り農業を軸として地場産業が栄えるという理想的な構図がそこにある。そして,地域力の底上げを実現した立て役者の1人がITだ。

“酒造りは米作りから”,品質の底上げが課題に

 朝日酒造は,創業1830年(天保元年)の新潟県でも指折りの蔵元である。朝日山,久保田,越州,洗心など数々の清酒ブランドを育て上げ,縮小傾向にある国内清酒市場にあって業績は高い安定度を誇る。

 同社の強さはどこにあるのか。取締役製造部長の勝又和明氏は,次のように答える。「米の偽装表示が社会問題になるなど,食の安全に対する信頼はかつてないほど揺らいでいる。こうした中,当社は“酒造りは米作りから”を掲げ,約20年前に自ら原料である酒造米の研究・育成組織を立ち上げ,地域の農家と共に取り組んできた。生産者の顔が見える“地元の米”にこだわり,確かな品質を求める姿勢を貫いてきた」――。

 1989年に始まった酒税法改正と級別廃止などにより,清酒業界では酒の品質が以前にも増して厳しく問われるようになった。原料である米の品質がモノを言う時代になったとも言える。

 朝日酒造は1990年に,農業生産法人の「あさひ農研」を設立。酒造米の「五百万石」,「たかね錦」,「千秋楽」といった酒造米を作付けして研究を重ね,蓄積した技術は広く公開した。また,契約農家を募り,作付け面積を増やしていった。

写真2●左から,朝日酒造取締役広報部長の松井進一氏,取締役製造部長の勝又和明氏。
写真2●左から,朝日酒造取締役広報部長の松井進一氏,取締役製造部長の勝又和明氏。