年収1000万円以上の案件だけを掲載する求人サイト「ビズリーチ」。同サイトを運営するビズリーチの南壮一郎社長は、外資系投資銀行、楽天を経て、同社を立ち上げた(関連記事)。ビズリーチは、企業に課金するモデルが多い中で、求職者から収入を得るビジネスモデルを打ち出し、注目を集めている。南社長に、ビズリーチにかける意気込みなどを聞いた。(聞き手は島田昇=日経コンピュータ)

なぜ、人材紹介業で起業したのか。

 当初はどの分野で起業してもいいと思っていた。しかし今は、明確な意思と狙いを持っている。「ビズリーチに人生をかけている」と言っても良い。決して大げさな発言だとは思わない。外資系投資銀行を経て、楽天で球団立ち上げに参加した後、起業することになった。「なぜ人材業界なのか」といえば、球団立ち上げ時に、閉鎖的な業界を開放するプロセスが面白かったことが大きい。

 人材紹介業を「怪しい」と考えている人が多いのではないだろうか。当社は求人サイトを運営しているが、知人から「人材派遣業をやっているのか」と言われることもある。それほど、分かりづらい業界だ。閉鎖的でよく分からないことが多い業界に入り、そこを効率化することが、私自身の付加価値だと思っている。

 球界の例でいえば、当時は非常に閉鎖的で嘘も多い業界だった。観客動員数にしても、ある球団は推定人数を公表しており、実数とは1万人もの誤差があることもあった。楽天が実数で観客動員数を出し始めてから、他球団も実数を公表し始めた。こうした改善が積み重なり、閉鎖性が開放に向かい、嘘がなくなっていくことこそが、業界全体の活性化への第一歩だと思っている。

人の人生を左右する仕事は大きなやりがい

 これを人材紹介業でもやりたい。人材紹介業は調べれば調べるほど、大切な仕事だ。人の人生を左右するのだから。それに、仕事のやりがいは他にないと言っていいくらいだ。

人材紹介業のどこに嘘があるのか。

 一番の嘘は、「求人サイトおよび人材紹介サイトのお客様は、求職者ではない」ということだ。ほとんどのサイトの顧客は、広告料を払う企業である。つまり、企業側の視点で、売りたい職を求職者に売っているわけで、これでは中古車のセールスマンと大差ない。ここに疑問を感じたのだ。

 逆に、求職者を真のお客様に想定した求人サイトを作れれば、いいサービスになると考えた。弁護士や税理士に相談してお金を払うのと同じだ。それにサービスを提供する側も、お金を払う人にこそ本気になり得る。だから当社は、年収1000万円以上に限定した求人サイトにし、企業からの広告掲載料ではなく、求職者から課金するビジネスモデルにした。結果、対象顧客層もビジネスモデルも、他社とは異質なものになった。

 また、一般の求人サイトでは得られる情報が限定的である点にも改善の余地がある。私自身が求職者として活動をしたとき、求人サイトは便利だと感じたが、希望の仕事が見つからなかった。そのため、1カ月で約20人のヘッドハンターに会い、「自分に合う面白い仕事をしたい」と話したところ、全員が「これがあなたにぴったりの仕事だ」と、それぞれが全く違う仕事を紹介してきた。

 こうしたヘッドハンターたちの情報はインターネット上では入手しづらい。情報が隠されているわけだ。求人情報は、一人の人間の人生を大きく左右するほどの情報なのだから、これは明らかにおかしい。ましてや、インターネットが普及し、社会や経済活動とも密接にかかわり始めている時代の潮流にも反する。