東邦チタニウムは、要件を固めきれないが納期は厳守というプロジェクトをアジャイル開発手法を使って乗り切った。アジャイルは短い開発期間を繰り返し、要件を決めながら機能を実装する手法。ユーザー部門のキーマンをチームに引き込んだり、途中でアジャイル開発向きでない開発者を交代させたりして、プロジェクトを完遂した。同社として初めて挑んだアジャイル開発だったが、納期を守り、コストも計画内に収めた。舵取りの難しいアジャイル開発プロジェクトを成功に導いた手腕が評価された。
東邦チタニウムは、「アジャイル」と呼ぶ開発手法でチタンインゴット(金属チタンの塊)の生産管理システムを構築した(図1)。アジャイルは短い開発期間を反復して、機能を組み上げていく。同社にとっては初めての試みだった。要件を決めながら開発できるメリットを得るには、プロジェクトの体制や運営に工夫があった。
「要件を固めきれないうえに納期厳守。仕様変更を受け入れながら短期にシステムを開発できるアジャイル開発手法を選んだからこそ成功できた。ウォータフォール型開発手法では間違いなく失敗しただろう」。プロジェクト責任者を務めた加古幸博 常務執行役員は、難題プロジェクトをこう振り返る。
この生産管理システムには2年間と3億円を投じた。既存の販売や検査といったシステムとデータ連携しながら、受注から出荷までの情報を一元管理する機能を備える。
納期は絶対、仕様はあいまい
同社ではこれまでウォータフォール型の開発が主流だった。今回アジャイル開発を選んだ背景には三つの制約があった。
一つは納期だ。チタンは最新の航空機1機で140トンを使用したり、日用品にも用途が広まってきた。同社は今後のチタンの需要増を見込んで新工場の建設を決定したが、プロジェクトが本格的に始まった2006年5月の時点で新工場の完成まで2年間しかなかった。「システムがなければ工場は動かない。納期は何より絶対条件だった」(加古常務)。
だが、工場建設とシステム開発を並行させるので、作業手順などの要件を確定しきれない。これが二つめの制約だ。最後の制約は「進捗状況を“見える化”しなければならなかった」(加古常務)ことだった(写真)。
こうした課題を汲み取ってアジャイル開発を提案したのがウルシステムズである。「最終コンペに残ったもう1社はウォータフォール型を提案した」と、協力会社の選定などプロジェクトの予備検討期間から推進役だった浜津和弘 生産技術担当部長(当時)は話す。
アジャイル開発は2~6週間のイテレーションと呼ぶ期間で要件定義と設計、実装、テスト、レビューを実施する。そしてイテレーションを数回繰り返してシステムを完成させる。今回、イテレーションに先だって実施した業務分析の結果、ユースケース(利用者から見たシステムの利用場面)は約270と見積もった。ここからイテレーションは1カ月、回数は9回と決めた(図2)。