クラウド上でのビジネスアプリケーション開発が実際にはどのように変わっていくのか。前回は、米セールスフォース・ドットコムが提供する「Force.com」とは何かについて、すでに10年間のサービス提供実績を持ち、利用企業からの要求に基づいて実装されてきた機能を紹介した。今回からは、実際にForce.comを試してみようと思う。

Force.comの開発生産性はJavaなどの約5倍

 Force.comを試す前に、興味深いデータの一つを紹介したい。独立系アナリスト企業である米ニュークリアス・リサーチが実施した調査結果である。同調査によれば、クラウドとオンプレミス(所有環境)のそれぞれで実際にアプリケーションを開発した17社の結果を詳細に分析したところ、「Force.comプラットフォーム」で開発した場合、Javaや.NETよりも4.9倍早くアプリケーションを提供できたという(発表文)。このことは、単純に「クラウドコンピューティング」にさえすれば、だれでもが大きな効果を実現できのではなく、どのレイヤー(階層)までのサービスを利用するかどうかが重要なことを示している。

 市場であるクラウド基盤の提供レイヤーを示したのが図1だ。ここでは、図の右側に行くほど、よりソフトウエアサービスに近いレイヤーまでをサービスとして提供することを示している。Force.comは、右端、つまりSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)の一歩手前までの機能をPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)として提供している。

図1●エンタープライズ向けクラウド基盤サービスの提供レイヤー
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 これは、Force.comがもともと、SaaSである「Salesforce CRM」からCRM(顧客関係管理)アプリケーションの機能だけを除いたものだからだ。統合エンタープライズアプリケーション基盤として提供されるのは、オンデマンドデータベースや国際化機能など、第1回に紹介した機能である。

 前回述べたように、ハード資源、基本ソフト資源のみの低レイヤーのクラウド基盤サービスは、Javaや.NETなどで開発された既存アプリケーションをクラウドに移行しやすい。だが、クラウドコンピューティングといえども、そこから得られるメリットは限定的である。従来どおりのプログラミング開発、アプリケーションの保守、ユーザーニーズや市場の状況の変化への対応が難しい非リアルタイム性、クロスサイトスクリプティングなどアプリケーションコードの脆弱性担保などからは開放されない。それは、”非リアルタイム”のクラウドプラットフォームであり、Force.comが目指してきた「リアルタイムクラウドプラットフォーム」とは異なるものである。

 では早速、Force.comが”リアルタイム”であることによる生産性や柔軟性の高さが、どのように実現できるかを具体的に解説していこう。

 現在、Force.comを実際に試す方法には、以下の二つのオプションが提供されている。

(1)30日間無料トライアル:実際にSalesforce CRMもしくはForce.comの導入を考えている企業向けの30日間のトライアル環境。5ユーザーまで利用できる。設定した内容や入力したデータは、そのまま有料環境へ移行できる。セールスフォース・ドットコム日本法人のホームページにある「無料トライアル」からサインアップできる。

(2)Developer Edition:開発者向け環境。無期限で利用できる。制限としては、容量が20メガバイトまで、利用可能なユーザー数や、そこで構築した利用環境を有料環境に移行できないなどがある。ただし、作成したアプリケーションは、設定情報をパッケージングし、他の環境に展開できる。

 さらに、本連載では、読者のみなさんにForce.comを気軽に体験してほしいということで、特別に今回使用する組織(サインアップごとに作られるユーザー専用環境)を用意した。ここから是非、体験してほしい。ただし、この環境ではカスタマイズはできない。カスタマイズを体験したい場合は、以下に紹介する手順で、Developer Editionにサインアップしてほしい。