新たな付加価値の創出に大きく貢献するレイヤー2接続だが,同方式に対応済みの携帯電話事業者は2009年6月下旬現在,イー・モバイルとNTTドコモだけである。

 この2社のうちNTTドコモに関しては,特殊な接続形態になる。一般にレイヤー2接続ではL2TPを利用して携帯電話事業者の網とMVNOの網をつなぐが,NTTドコモの場合はGTPと呼ぶ方式でつなぐことになり,MVNOはGGSNと呼ぶ中継パケット交換機を用意する必要がある図1)。

図1●NTTドコモのレイヤー2接続の構成<br>MVNOは接続に当たって「GGSN」と呼ぶ中継パケット交換機を用意する必要があり,最低数億円規模の初期投資が必要になる。
図1●NTTドコモのレイヤー2接続の構成
MVNOは接続に当たって「GGSN」と呼ぶ中継パケット交換機を用意する必要があり,最低数億円規模の初期投資が必要になる。
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 3月にNTTドコモとレイヤー2接続を実施した日本通信によると,GGSNを保有することで通信品質を制御しやすくなるという。端末の接続速度をGGSN側で設定できるので,トラフィックが増えたときに通信速度を絞らなくてもMVNO側であらかじめ速度を下げておける。また,GGSNを経由する通信に関してはMVNO側で優先制御を自由に設定できる。接続速度の制限や優先制御を組み合わせることでサービスのバリエーションが増えるとする。

 ただ,GGSNは通常,携帯電話事業者が設置するもので,価格は「数億円規模」(業界関係者)。日本通信でもレイヤー2接続に当たって「装置を含め,全体で3億円程度を追加投資した。(以前からMVNOを展開しており)元々,設備のベースはあったのでこの水準で済んだ。ゼロから導入するとなれば初期投資はさらに高くなる」(福田常務取締役)という。

 さらにGGSNの運用には高度なスキルが必要となる。技術力の有無や投資回収のメドを考えると,レイヤー2接続を実現できるのは大手のインターネット接続事業者など一部に限られるだろう。多くのMVNOは自らレイヤー2接続を実施するよりも,これらの先行事業者から支援を受けて参入することになる。

MtoMへの適用に向けた動きが加速

 レイヤー2接続の解禁でサービスの多様化が進むのは間違いない。企業向けでは,IIJダイレクトアクセスのように閉域網並みの安全性を安価に実現するサービスが増えていくことが予想される。用途はリモート・アクセスに限らず,WANのバックアップ回線やMtoMのバックボーンなど幅広い。

 今後,特に活用が期待される分野はMtoM。配送トラックの運行情報,POS(販売時点情報管理)端末の販売情報,自動販売機の在庫や稼働状況,ガス検針のような計測器による計測情報などを無線でやり取りする例が考えられる。

 IIJも3月からMtoM向けのソリューションの本格展開に乗り出した(図2)。IIJダイレクトアクセスを利用したネットワークの構築から,機器連動システムの構築や運用までをワンストップで提供する。通信料金は個別見積もりで月額数百~数千円程度とする。

図2●IIJが3月に開始したMtoM向けソリューション<br>通信料金はトラフィックに依存し,月額数百~数千円程度で利用できる。
図2●IIJが3月に開始したMtoM向けソリューション
通信料金はトラフィックに依存し,月額数百~数千円程度で利用できる。
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 IIJのグループ会社のタイヘイコンピュータは4月,このソリューションを活用して「POCKETTA」(ポケッタ)と呼ぶサービスを開始した。非接触ICカードのリーダー/ライターとデジタル・サイネージを組み合わせた専用装置を活用し,ポイント管理や販売促進などの機能を店舗運営企業向けに提供する。

 MtoMへの適用に向けた当面の課題は通信機能の組み込みにかかるコスト。IIJは,通信モジュールに7.2Mビット/秒のHSDPAに対応した韓国AnyDATA.NET製の「DTM-620WK」を採用し,価格は1万円台前半とした。ただ,「伝送速度は3.6Mビット/秒や384kビット/秒で構わないので半額程度のモジュールが欲しいというニーズもあり,今後対応していく予定」(IIJ)とする。MtoMの利用が広がればモジュールの低廉化を期待できるので,この問題は時間が解決すると見られる。