ツムラは仮想化技術を使い、サーバー統合を実施。137台のWeb/アプリケーションサーバーを12 台に集約するなど、サーバー費用を7割近く削減した。仮想化によりハードとソフトを分断し、長く使い続けられるインフラを構築した。「ハードの変更にソフトが引きずられる」という課題と決別することが狙いだ。仮想化技術を駆使して、ディザスタリカバリ(DR)システムの構築にも挑戦する。コスト削減に加えて、戦略的なインフラを構築したアイデアが高く評価され、準グランプリを受賞した。

 「10年たっても使い続けられるインフラを作りたい」。情報技術部の佐藤秀男 部長は、仮想化技術を使ったサーバー統合の狙いをこう語る(図1)。

図1●仮想化によるサーバー統合で10年後も使えるインフラを構築統合
図1●仮想化によるサーバー統合で10年後も使えるインフラを構築統合
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 同社がサーバー統合を本格化したのは2008年のこと。137台のWeb/アプリケーションサーバーを12台に統合。サーバー費用を68.2%削減するなどコスト削減効果を上げてきた。一般に、仮想化によるサーバー統合の目的はコスト削減にある。ハードウエアを集約して台数を減らすことで、保守費用や運用コストを押し下げる。

 営業や工場、研究所などに散らばるシステムをいかに効率的に運用するか─海外拠点を含め全システムの運用作業を14人のメンバーでこなしていた同社も、統合によるコスト削減を目指した。ただし、目的はそれだけではない。

 仮想化の真のメリットは、システムに組み込むハードとソフトの依存性を断ち切れることにある。両者の間に仮想化レイヤーをはさみ込むことで、たとえハードを刷新しても、ソフトに影響が及ぶことを防げる。つまり、仮想マシンでOSやアプリケーションをラッピングしておけば、そのまま長期にわたって使い続けられるのだ。同社が仮想化技術を取り入れた理由としてこのメリットは大きい。

 “10年インフラ”の構築に乗り出したのは、自前主義を掲げる同社の姿勢にもよる。同社では2000年ころからできるだけパッケージソフトを使わないようにしてきた。2004年からは方針としてはっきりそれを打ち出し、パッケージの利用は「法対応」にからむ部分に限定している。「コアビジネスのアプリケーションには自社ならではのノウハウがたくさん入っている。ここは末永く使い続けていきたい」(佐藤部長)。

137台のサーバーを12台に統合

 同社が仮想化に着手したのは04年にさかのぼる。05年にはサーバー統合の効果が出始めていたという。ただし、統合作業を本格化させたのは08年のこと。「もっと早く仮想化を進めたかったが、ハードのスペックが不足していたし、仮想化ソフトの安定性も低かった」(佐藤部長)。ハードのスペックアップや仮想化ソフトの成熟を待って、仮想化を加速させたというわけだ。

 仮想化技術を使ったインフラ構築は三つのフェーズに分けて進めている。フェーズ1では137台のWeb/アプリケーションサーバーを仮想化して12台に統合した(図2)。

図2●Web/アプリケーションサーバー統合の効果
図2●Web/アプリケーションサーバー統合の効果
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 まず08年の初頭に、同社のシステム運用を担当している三菱総研DCSおよびデルから、仮想化ソフト「VMware Infrastructure 3」の提案を受けた。その後、デルによる仮想化キャパシティのアセスメントや検証などを経て、サーバー統合プロジェクトを正式にスタートさせた。「137台のサーバーを何台に集約できるか、試算にはかなり時間をかけた」(情報技術部 情報管理グループの山口卓雄 グループ長)という。

 統合の結果、単純に計算すると、1台当たりに10台以上の既存サーバーを集約したことになる。サーバーの台数を92.7%削減し、ハード費用を45.3%減らすといった効果が上がった。仮想化によるサーバー統合では、統合後の性能などへの考慮に加え、ソフトの動作保証や運用管理などがポイントになる。

 同社では、多くのアプリケーションは「仮想化移行(PtoV)ツール」を使い、物理サーバーを仮想サーバーへ移行させた。仮想環境でのソフトの動作保証について佐藤部長は「これまでマルチベンダー構成で保守内容や保証期間が異なる製品を組み合わせて使ってきた。そうした経験から考えると、ベンダーが全部を保証できるはずがない。最後は我々が責任を取る」と説明する。

 仮想環境では動作しないサーバーもあった。例えば、FAXボードを導入して取引先などにファクシミリを送っていたサーバーだ。このケースはインターネットFAXへと仕組みを変えた。このように、ハードに依存するサーバーはこのタイミングで“仮想化対応”させていった。仮想環境を長く使い続けるための地ならしにほかならない。